榊莫山《土》
制作年不詳/紙本/23.7×26.6cm
画面いっぱいに書かれた土という漢字。黒い墨で画面の大半を覆いながらも、墨の濃淡と自由な筆づかいによって、平板ではなく、また、明るい印象を与えます。
作者の榊莫山は、現在の伊賀市出身の書家。絵と書が一体となった芸術を追求しました。莫山は、20代の頃、国内の団体展で最高賞を獲得するなど活躍しましたが、30代半ばになると団体を離脱しました。以後、伝統的な漢詩を文字に表すのではなく、自分の言葉を探す一人旅を行いました。京都や奈良で野ゆき山ゆきを繰り返すなかで浮かんできたのが、土という言葉でした。
莫山によると、土という漢字において、2本の横棒は地表と地中、1本の縦棒は地中に埋もれた種が地表を破って発芽する姿を表しているといいます。つまり、土という漢字の形は、植物の生きる力を表しています。このように、莫山は、漢字のもつ根源的なイメージをもとに制作を行い、とくに土という漢字を生涯の重要なテーマとしました。