横山操《瀟湘夜雨》
1963(昭和38)年/紙本墨画/121.0×243.0cm
縦向きに墨のかすれた線が無数に引かれ、一見すると抽象絵画のようです。ただ、画面の下部には、三角屋根の建物や風になびく木々のシルエットが描かれており、風景を描いた作品だとわかります。縦向きに引かれた墨の線は雨を表しています。
作者の横山操は、第二次世界大戦の復員後、日本画の変革を試み、時事的なテーマを荒々しい筆使いで描き、画壇の風雲児と称されました。しかし40代になると、それ以前に描いた作品の多くを焼却し、水墨画などの伝統的な絵画に学び、精神性の深い新たな境地を開きました。本作品は、転機に立つ横山の象徴的な作品といえます。
作品名の瀟湘夜雨は、東アジアの伝統的な画題です。特定の場所を描いた風景画ではなく、時間や気候の移ろいを描くものです。時間や気候という漠然とした存在をいかに描くか、という問題に対し、古くから多くの画家が工夫を重ねてきました。本作品において、横山は、ペインティングナイフで紙をひっかき、その上に墨を塗って、雨のように見せています。