浅野弥衛《作品》
1964(昭和39)年/油彩・キャンバス/72.7×90.5cm
浅野弥衛は三重県鈴鹿で江戸時代から煙草屋を営む旧家に生まれました。生涯のほとんどを郷里で過ごし、一貫して抽象絵画の制作に打ち込みました。東海圏を代表する抽象作家の一人として評価されてきた画家です。
明るいブルーなどを基調とした色彩豊かな作品も制作しましたが、やはり浅野の代表作といえば、白や黒の単色の上に踊るような線が描かれた絵画でしょう。本作のような白地の油彩画は、浅野独自の「ひっかき」と呼ばれる技法で描かれています。まず、キャンバスに白い絵の具を平らに伸ばし、絵の具が乾ききらないうちに、先のとがった鉄の筆などを使って、一気に線を刻みつけます。絵の具をよく乾燥させた後、今度は黒い絵の具を全体に塗り、布でふき取ります。このとき、鉄の筆で傷をつけ、へこんだ部分には黒い絵の具が残り、線として浮かび上がってくるのです。
きりりと硬く、それでいて自在な線の描写と、それを受け止める柔らかに広がる白い面の対比が魅力的な作品です。