アントニ・タピエス《ひび割れた黒と白い十字》
1976年/混合技法・木/162.0×131.0cm
画面は土や砂などを混ぜて作られ、まるで分厚い壁のようです。その上に黒い塗料が広がり、所々がはじかれて、全体に模様のように斑点が浮かびあがっています。この作品はスペイン、バルセロナ出身の画家アントニ・タピエスの作品です。タピエスは土や砂や布、段ボールなどを用いて、素材の質感を強調した抽象画を数多く手がけました。
本作の上部には、十字の痕跡が刻まれています。地である木が見えるほど深くえぐってつけられたこの痕跡からは素材の持つ物質性が直接伝わってきます。一方で、十字は宗教的な象徴性を帯びた記号でもあります。したがって、この作品には堅固な物質性と精神性が同時に宿っているのです。タピエスは、「作品とは、瞑想の支えに過ぎない。」という言葉を残しています。本作において鑑賞者は、堅牢な物質を通して、その奥にある本質への瞑想へと誘われるのです。