橋本平八 《猫A》
1922(大正11)年/楠/高さ35.0cm
座った猫の姿をあらわした作品です。猫は首を横にねじってあたりをみわたしています。耳は外に向かって立ち、首の筋肉は盛り上がって、耳を澄ませて周囲をうかがう、猫の緊張が感じられます。
この作品の作者、橋本平八は三重県伊勢市朝熊に生まれました。ふるさとで彫刻の手ほどきを受け、この作品を制作したころは、東京に出て、憧れの彫刻家である佐藤朝山のもとで修業を行っていました。この作品について、後に平八は「自分の肖像であり身構へ心構へであり技巧の上には方式である。」と述べ、自らの代表作の一つに数えています。
この作品の制作に際して、平八は猫の解剖を行ったと伝わっています。体のつくりを確認しながら、真に迫った表現を試みたのでしょうか。猫の背中の盛り上がった筋肉や前足の節の表現には、研究の成果を見てとることができます。厳しい修業を経た平八が、東京の日本美術院展に初めて入選した記念すべき作品です。