鹿子木孟郎《津の停車場(春子)》
1898(明治31)年/油彩・キャンバス/57.1×39.0cm
縦57.1センチ、横39センチの縦長の画面に描かれた油絵です。1898年に当時の津駅付近で描かれたことが知られています。春子とは作者・鹿子木孟郎の妻の名前です。
画面の手前には、鉄骨が斜めに交差した欄干を持つ陸橋が描かれています。その橋の上で、髪を結い上げた春子が、こちらに背を向けてたたずんでいます。彼女は光沢のあるくすんだ水色の着物をまとい、袖からは鮮やかな朱色の衣がのぞいています。春子の体は向かって右側に向けられ、顔は少し左に向いています。橋の上には、春子や欄干の影が左下へ向かって伸びています。
春子の着物や、髪は細かいタッチで描かれていますが、彼女が眺めている線路や、線路脇に建つ小屋、画面の奥に広がる畑は、素早く粗いタッチで描かれています。画面の上の方へ伸びていく数本の線路は、曲がりくねり、途中で合流しています。線路脇には人影も見えます。
画面の上から6分の1くらいの高さに描かれる地平線の上には、建物とも森ともつかない塊が、黒いシルエットで描かれています。煙突や鉄塔のような高い建物も見えます。空には、もやもやとした何本もの黒い線が、大きな弧を描いています。