【柳原義達の芸術】2021年度第1期展示
A室:柳原義達とフランス、イタリアの彫刻
2021年3月23日(火)―8月19日(木)マリノ・マリーニの個展をはじめてみたとき、リシェ展をみた時、ムーア展をみた時、彼らの想像力にうちのめされた。同時代の作家として、私は自己の無気力がなんとしても寂しかった。私は作家だろうか―。少なくとも作家とは、美を創造する人でなければならないからだ。反省せざるを得ないのである。
(柳原義達「私と彫刻」『孤独なる彫刻』1985年、192頁
柳原義達は、18歳の時『世界美術全集』に掲載されたフランスの彫刻家、ブールデルの作品図版を目にしたことをきっかけに、彫刻の道に進みました。学生時代には、フランスの彫刻家ロダンやブールデルの彫刻に影響を受け、彫刻家として評価されるようになった後にも、フランス、イタリアの彫刻に高い関心を寄せ続けました。同時代の作家からも多くの刺激を受け、1953年より4年のフランス留学に赴いた際には、友人らとともに彼らを訪ねています。帰国後はそのすぐれた観察眼と文筆力によって、同時代の西洋彫刻の紹介者となり、雑誌や図録に多くの文章を寄せました。
柳原にとって、当初彼らは憧れの対象でありましたが、戦後には自らの模倣的態度を厳しく戒めるようになります。しかし、優れた彫刻家の作品に接して自らの表現を顧みることは、終生続けられました。
当館では、柳原義達氏よりブロンズ、デッサンをご寄贈いただいたことを契機に、2003年に柳原義達記念館をオープンさせました。今期は、柳原義達とフランス、イタリアの彫刻をテーマに、作品、柳原旧蔵の書籍を、寄託の西洋彫刻とともにご紹介します。
作者名 | 作品名 | 制作年 | 材料 | |
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『世界美術全集 第33巻』 | 1929(昭和4)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
高村光太郎編訳 | 『ロダンの言葉』 | 版不明 | 柳原義達氏旧蔵 | |
『Le drame de Beethoven vécu par Bourdelle』 | 1966(昭和41)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
柳原義達 | 仔山羊 | 1939(昭和14)年 | 石膏 | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | 首 | 1948(昭和23)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | 女の首 | 1948(昭和23)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
『みづゑ 545号』 特集現代フランス美術展 | 1951(昭和36)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
フランス パリ地図帳 | 柳原義達氏旧蔵 | |||
Romeo Lucchese | 『Pericle Fazzini』 | 1952(昭和37)年 | 柳原義達氏旧蔵 | |
Emmanuel Auricoste | 『Bourdelle』 | 1955(昭和40)年 | 柳原義達氏旧蔵 | |
マリノ・マリーニ | 茶色の背景の黒い騎手と赤い騎手 | 1961(昭和36)年 | リトグラフ | 柳原義達氏旧蔵 |
エミリオ・グレコ | アルツーサ | ブロンズ | 寄託品 | |
柳原義達 | 杉の木の服装 | 1950-60年代 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | 裸婦立像 | 1981(昭和56)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
『三彩 136号』 | 1961(昭和36)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
『別冊みづゑ No.28 イタリア現代彫刻』 | 1961(昭和36)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
『三彩 146号』 | 1962(昭和37)年 | 柳原義達氏旧蔵 | ||
柳原義達 | 座る女 | 1959(昭和34)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | ショックせる女 | 1957(昭和32)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | 犬の唄 | 1961(昭和36)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
柳原義達 | デッサン、スケッチブック | 1950年代 | 柳原義達氏寄贈 | |
道具類、塑像台 | 柳原義達氏旧蔵 |
B室:特集展示 ミケル・ナバーロ
2021年3月23日(火)―8月9日(月・振替休日)ミケル・ナバーロ(1945-)
ミケル・ナバーロはスペインを代表する現代彫刻家のひとりです。バレンシア州のミズラータという町に生まれ、当初は絵画作品を制作していましたが、1970年代から彫刻作品の制作に専念します。1973年に幾何学的な形のパーツの寄せ集めによって組み立てられる最初の〈都市〉作品を制作しました。この時はテラコッタで作られましたが、以降は素材を鉄や亜鉛、鉛、アルミニウムなどに代え、数多くの〈都市〉作品を作り続けています。現在ではバレンシア州立美術研究所(IVAM)を始め、ソフィア王妃芸術センター(マドリード)やポンピドゥー・センター(パリ)など名だたる美術館のコレクションに加えられています。
当館所蔵の《歩哨都市》は三重県とバレンシア州の友好提携5周年を記念して開催された「〈移動〉~バレンシアの七人」展に際して収蔵された作品です。
《歩哨都市》
アルミニウム、亜鉛 1993-1997年
四角い箱や台形、角柱、円筒など家やビルを思わせる幾何学的な形のパーツの集合によって、都市を表したインスタレーション作品です。大小様々なパーツの組み合わせは都市の持つ秩序と混沌を思わせます。また、これら床に置かれたそれぞれのパーツの間隙は街路をほのめかし、都市の広がりを伝えています。
〈都市〉シリーズはナバーロの代表作で、その着想源は故郷ミズラータで過ごした幼年期の遊びにあるそうです。都市を形作る各パーツは幾何学な形体に単純化されて、抽象的な表現がなされる一方、一部のパーツには出入り口や窓のような特徴が残され、具象的な側面も有しています。〈都市〉にはナバーロの性格や自 身が経験した社会への認識が反映されており、作品は想像の産物であるとともに、現実世界の投影でもあります。
また、作家によれば、様々なパーツによって構築される〈都市〉は人間の身体とパラレルな関係を有しているそうです。縦横に走る街路は体中に張り巡らされた血管を意識しているのでしょうか。有機的に流動をつづける都市の姿が表されています。
作者名 | 作品名 | 制作年 | 材質 |
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ミケル・ナバーロ | 歩哨都市 | 1993-97年 | アルミニウム、亜鉛 |
記念館ロビー、廊下
作者名 | 作品名 | 制作年 | 材質 | |
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柳原義達 | 靴下をはく女 | 1983(昭和58)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |
裸婦立像 | 1986(昭和61)年 | ブロンズ | 柳原義達氏寄贈 |