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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2018 > 表紙の作品解説 尾野訓大「造山輪廻3」 友の会だより108号 2018.11

表紙の作品解説 尾野訓大《造山輪廻3》

写真 2016年 作家蔵

貴家映子(三重県立美術館学芸員)

 スマートフォンなどで誰もが手軽に撮影ができる今、無数のイメージが世界中で瞬時に生産されている。なかでもSNS上の風景写真の多くは、撮影者が実際に見て感動した瞬間の景色が映し出され、誰かに共感を寄せてもらうことが期待されている。
 尾野訓大の写真は、そうしたイメージの有り様とは大きく異なる。《造山輪廻3》は、一見すると、雲より高い山の頂を映した雄大な風景写真だ。しかし、山の表面は異常に隆起し、ざらざらとした表面に覆われている。実はこの写真、海辺の岩礁のごく一部を拡大したイメージで、白い雲のように見える部分は、潮の満干による水位の変化が写り込んだもの。暗闇のなか一晩近くカメラのシャッターを開けたままにする超長時間露光で撮影されている。遠い港から届く僅かな光が堆積して、闇に沈む世界を真昼のように浮かび上がらせている。
 「一晩」という時間は、眠ってしまえば瞬く間に過ぎ去るが、イメージ生産に必要な時間としては(とくにスマホに比して)とても長く感じる。一方で、潮の満干が岩場を侵食しやがて山や渓谷を作り出すためには、はるかに多くの年月を要する。この一枚の写真のなかには、人間と機械、そして自然が内包する異なる時間の流れが廻っている。
 SNS上のイメージとのさらに特筆すべき違いは、シャッターを押す尾野本人もこの光景を実際には見ていないということだろう。岩や潮の満干、光と影は、誰に「いいね!」をもらうことも期待せず、その像をフィルムに定着させている。確かにそこにあったものの実在をどこか曖昧に感じてしまうのは、明るさに目が眩んだ、ただ人間の知覚だけなのかもしれない。
 「Para-Landscape “風景”をめぐる想像力の現在」(2019年1月4日[金]-3月24日[日])にて展示。

(友の会だより108号、2018年11月30日発行)
 

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