表紙の作品解説 テオ・ヤンセン《アニマリス・トゥルゼンティア・ヴェーラ》(アウルム期)
田中善明(三重県立美術館学芸員)
「キネティック・アート」という耳慣れない用語があります。 「動く美術」もしくは「動いているように見える」美術のことをこのように呼びます。浅野弥衛さんのひっかいた絵画なども、まるで動いているように見えることからキネティック・アートの分類に入ってくるかもしれませんが、やはりこの用語を使いたくなるのは、あの名古屋市美術館の入口手前にもあるアレクサンダー・カルダーの赤いモビール彫刻などでしょうか。
さて、今年の夏、三重県立美術館ではオランダの作家、テオ・ヤンセンの展覧会を開催しますが、まさにこの人は現代のキネティック・アートを代表する作家です。ガソリンや電気を使わない、風という自然エネルギーを食べて(使って)作品が動くのが特徴で、昆虫や動物のような動きにどことなく愛嬌があり、作家の遊び心が感じられます。 1990年から現在まで、テオ・ヤンセンの作った人工の生き物たちは進化しつづけ、今では強風になれば自分で杭を砂浜に打ち込んだり、水を感知すると遠ざかる動きをしたりするなど、自分で反応する頭脳まで備えるようになりました。
地球には、誕生から現在に至るまで、ジュラ紀や白亜紀など、地質による時代区分がされていますが、テオ・ヤンセンが作り続ける様々な生き物たちも、その制作された時期によって「コルダ期」 「セレプラム期」などの区分がされています。もうすぐ70歳になるこの作家は、今も子ども時代の純粋な遊び心を持ちながらアートの世界に新たな生命を吹き込んでいます。
(友の会だより104号、2017年6月30日発行)