三重県立美術館のコレクション探訪 宇田荻邨《木陰》
吉田映子
若い女性が3人、赤い腰巻を身に着けただけの姿で木々のあいだで憩っている。女たちから上方へと目線を寫せば、漠とした葉叢が広がるばかりである。樹木は、その丈高さに比してひょろひょろと細く、濃い陰影に縁どられてもいて、どこか神経質な印象を与える。繁茂する葉や垂れ下がる蔦からは、女性たちを覆い隠してしまおうとするかのような意志が感じられ、また、鑑賞者以外の異質な視線がどこからかこっそりと見つめているかのような不穏な雰囲気が、画面全体からにじみ出ている。その中で、女性たちの丸みを帯びたからだは、一層妖艶な生命力を発散する。とりわけ、右側の女性は、S字形に肢体をくねらせ、舞を踊るインドの女神にも似たエキゾチックさが備わっている。
本作は、宇田荻邨が京都にやってきて8年目、堂本印象や福田平八郎、山口華楊らとともに九名会展を開催した年に描かれた。第3回での《港》の落選を経て、第4回帝展で再度入選を果たした意欲作である。
残されたいくつかの準備素描によると、本作品は当初「水浴図」として構想されていたことが分かる。また、女性が襦袢を身に着けていたり、あるいは渓流のなかに半身を横たえていたりと、完成作に至るまでに衣装や状況設定に変更があったようだ。
そうした説明的な要素を削ぎ落としていった結果、荻邨が何を表現したかったのか。確かなことは分からないが、全体のセピア色の調子とも相まって、時間や場所を超越した奇妙な白昼夢を見ているような気分が作りだされている。
(友の会だより96号、2014年11月30日発行)