第15話  斎宮引っ越し興行中 -女房三十六歌仙図屏風は人気者-

 ただいま斎宮歴史博物館は耐震工事のため休館中です。その間展示資料は当然ながらお蔵入り、では面白くないので、他所で働いています。それも二か所で。
 一カ所は博物館にほど近い「いつきのみや歴史体験館」です。とはいっても、ここは正式な展示施設ではありませんので、展示できるものは限られています。そこで、羊形硯のレプリカや別れの櫛の復元品をはじめとしたレプリカや複製資料を中心に、斎王についてや斎宮の発掘成果などを紹介する展示を行っています。映像展示の上映と一体にして、休館期間中にお越しいただいたお客様に少しでも斎宮を知っていただくことを目指しています。
 もう一か所は「桑名市博物館」です。ここでは移動展「王朝のみやび 伊勢斎宮」と題して、重要文化財に指定された斎宮跡の出土品のほか、『源氏物語』・『伊勢物語』・三十六歌仙関係の館蔵資料の一部を公開しています。これらの美術資料は、博物館でもそうそう展示しないものばかりで、三重県北部の皆様に斎宮のことをより広く知っていただくための「みやび」を強調した展示としています。
 ところで斎宮歴史博物館にはよく、『源氏物語』や『伊勢物語』、三十六歌仙などの画像を貸してほしいという依頼がマスコミなどから届きます。ホームページで主要な資料写真を公開しているので、検索エンジンで引っかかるからだと思われますが、公立の博物館でこうした資料を収集している所が珍しいからだともいえます。
 ご存じのように、『伊勢物語』や『源氏物語』には斎王が出てきます。つまりその部分が絵画化されると、『伊勢物語』の斎王だとか、『源氏物語』の元斎王の秋好中宮とかの絵が出てくるわけですね。ところが、数十点の色紙を貼り込んだ色紙貼交屏風などには、斎宮と関係はない場面も含まれています。『源氏物語』の「若紫」とか、『伊勢物語』の「筒井筒」だとか、有名な場面の絵などが沢山あるわけです。そうした所の写真をお借りしたいというご依頼も少なくありません。今回展示している『伊勢物語』では、絵巻に色紙貼交屏風に色紙にかるたに、久しぶりの展示となる硯箱や茶箱。『源氏物語』では屏風、貝桶、文箱、合わせ貝などがそういったグループとなります。
 そういった美術資料の中でも面白いのは、三十六歌仙資料のうちの『女房三十六歌仙図屏風』。高さ三十センチばかりの小屏風です。女房三十六歌仙とは、鎌倉時代に本来の三十六歌仙にならって女性歌人ばかり三十六人を選んだ、いわば平安・鎌倉時代女流歌人ベスト36なのですね。本物の三十六歌仙に比べて有名ではないために、美術資料もそれほど多くはありません。ところが一方で、女性歌人の数は男性に比べて多くないので、小野小町を最古に、有名どころの女流文学者はほとんどみんなこの中に入っているのです。たとえば紫式部、その娘の大弐三位、清少納言、和泉式部、その娘の小式部内侍、『栄華物語』の赤染衛門、『更級日記』の菅原孝標女、『蜻蛉日記』の右大将道綱母、以前にご紹介した馬内侍、三十六歌仙からは伊勢に中務に斎宮女御に小大君、百人一首歌人でも伊勢大輔、相模、右近、待賢門院堀河に殷富門院大輔、二条院讃岐、周防内侍や儀同三司母、そして式子内親王もメンバーです。
 というわけで、この屏風や画帖からは簡単に清少納言の画像とか、和泉式部の画像とかを引き出すことができるのですね。たとえば和泉式部の絵なんて、百人一首かるた以外でそう簡単に使えるものがあるわけじゃありません。だから、有名女流文学者のポートレート素材として掲載依頼が寄せられるのです。
 この『女房三十六歌仙図屏風』をはじめ、斎宮歴史博物館所蔵の美術資料をこれほど出陳する展覧会は斎宮歴史博物館でもほとんどないだろうと思います。
 もちろん斎宮跡の発掘調査や、重要文化財に指定された出土資料の数々、当館館長が写した斎宮の四季の風景写真、史跡を活用した様々な取り組みの紹介など、あらゆる角度から斎宮を知っていただくことを目的とした展示構成となっています。手作り体験やギャラリートーク、講演会など様々なイベントも織り交ぜながら、この展覧会は3月7日(日)まで開催しております。
 お近くの皆様は是非とも足をお運びくださいませ。

(学芸普及課 課長 榎村寛之)

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