第23話 追儺(ついな)のまつり
年の瀬が近づくと、毎年毎年頭が痛いのです。そう、アレがやってくるのです。
四つ目の怪人と陰陽師、いつきのみや歴史体験館の「追儺のまつり」です。
追儺はもともと大晦日の宮廷行事ですが、新暦に変わった現代では、寺社で旧暦正月前、つまり節分と一体化して行われることが多くなっています。そのため、年末の追儺は珍しい上に、ほとんどの所では鬼を追う行事になっていて、体験館のような宮廷行事を再現するものはごく珍しいのです。この行事、体験館が発足したころに始まり、それからずっと続けられているため、割合にマスコミに採り上げられることが多いイベントです。
ところが、追儺というのはあまり一般的な行事ではありません。そのため、毎年ミニ講演会を「追儺のまつり」の中で行うのですが、これがなかなか大変なのです。だいたい20分から30分程度の短い講演会ですが、追儺に関係させて毎年違う話をしなければならないのです。昨年の第十回までのテーマはこんな感じ。
第一回「儺のまつり-方相氏と陰陽師」
第二回「鬼のルーツを考える 方相氏の変容から」
第三回「儺の祭と鬼と新しい年」
第四回「平安時代の『ばけもの』たち-鬼・狐・狸・天狗-」
第五回「追儺のまつりをめぐって」
第六回「鬼と占いと陰陽師」
第七回「私たちの身近な追儺」
第八回「鬼と天狗の物語」
第九回「追儺と土牛 丑年によせて」
第十回「追儺と大歳とサンタクロース」
だいたい一回A4版三枚程度の資料の内容ですが、改めて見ると、狭い範囲でテーマをこしらえるのに苦労していることがよくわかります。もともと、追儺あるいは儺の祭と言われた、あまりなじみのないこの行事を説明するための解説講演会だったのに、回を重ねるにつれて内容がだんだん深くなっていることにも気づきます。また、タイトルにも、すごく適当そうなものがあれば、手の込んだものもあり、その頃の問題関心を反映しているのでしょう。
この追儺と呼ばれる儀礼には、大きく分けて5つのポイントがあります。
1 もともと中国にあった祭祀で、古代の祭祀には珍しく陰陽師が関わること
2 方相氏と鬼との関わりから日本人の鬼についての観念がうかがえること
3 他の行事と混合し、現在は豆まきという全く違った形になっていること
4 私たちの身の回りにある生活感覚にもその名残があること
5 その実施時期によって新しい年についての認識がわかること
これらを組み合わせ、新しい情報や解釈を加えていくことによってその年のテーマを作っていくわけですが、中でも面白くてなお謎が多いのは、新年を迎える意識のことです。
現在、多くの追儺は節分と一体になって新暦2月初旬に行われています。これは節分の豆まきが「鬼やらい」と呼ばれ、それが追儺の別称でもあることからわかるように、鬼を追い出す儀式と認識されているからだといわれます。
しかし一方、2月には、もうひとつ鬼が出てくることで有名な祭があります。旧暦2月、つまり3月初旬に行われる仏教儀礼、修二会です。東大寺のお水取りで有名なこの儀礼にも鬼がついてくるのです。
2月の祭だから正月前の追儺とは関係ないだろう、と思いますが、なかなかそう簡単にはいかないのが面白い所です。
2月には事始めという行事があります。これは2月8日に家でお籠もりをする行事で、12月8日の事納めと対になって「コト八日」と言われます。これらは、一年の農業の終わりと始まりを告げる祭らしいのです。そして事始めと言えば、芸事の世界では12月8日を事始めといいますね。12月8日は、一方で「事納め」、また一方では「事始め」なのです。これは、この日から正月の準備を行う、という意味での「始め」なのだそうです。つまり、終業式と言うか冬休み最初の日と言うかの違いのようなものですね。そして昔の正月は今の三が日とは違い、たとえば平安時代には七日節会や白馬節会、最近でも小正月や七草の祝、十日戎など、一カ月を通じてイベント月でもありました。つまり12月・1月は長い長い神祭りの時期でもあるのです。ちなみに伊勢では、12月上旬に「山の神」と呼ばれる村の祭があります。山の神さまをその年の当番の家に迎え、宴会をするものです。これも年の瀬の神祭りのひとつなのですが、色々な形があって今では実態がわからなくなっているものも少なくありません。
民俗学風にいえば、収穫祭である新嘗祭から新年の農作業の開始まで、田の神は山へ帰り、その間に歳神が新しい年をもたらす、ということになるのでしょう。しかし一方で、年の瀬には災厄をもたらす神もやってくるし、色々な不思議なモノもやってくると言われていました。
というわけで、今年の追儺の演題は「年の瀬にやってくるモノ」という題名にしました。どのような話になりますかは、当日のお楽しみ。話の中には、「一つ目小僧」も出る予定です。
12月23日(祝日・木曜日)午後1時から開催される「追儺のまつり」に、どうぞお越しください。
(学芸普及課 課長 榎村寛之)