第94話  岡山に斎王を見に行ってきました。

 平成19年12月1日(土)、なんと岡山市で斎王の行列がありました。斎宮歴史博物館のではありません。主催は岡山県神社庁です。

 伊勢神宮の遷宮広報行事として、天満屋百貨店(地元では大変有名な百貨店)の催場を使って、伊勢神宮展が開かれており、その一環として、「斎王行列」が再現されたのです。

 斎宮歴史博物館では、斎宮についての紹介のため、伊勢物語絵巻、斎王群行絵巻のそれぞれレプリカを貸し出したほか、岡山と斎宮の関わりを、事実上の初代斎王といえる大来(大伯)皇女が備前国の生まれ、という縁もある、といった文章パネルも寄稿させていただいたりしたこともあり、休みを利用して様子を見に行ってきました。

 天満屋の催場は半分を展覧会、半分を三重県の物産展にしていて、ちょうど到着した時には、斎王役の人の着付けを行っていました。地元の高校生だそうです。

 斎王は、緑の小袿(こうちぎ)姿に小忌衣(おみごろも)を着していました。頭には玉鬘(たまかずら)のほかに釵子(さいし)らしい銀の飾りをつけています。面白いのは、袴を濃色の切袴(きりばかま)にしていることです。未婚の女の子なら濃色でもいいけど、斎王のように職を持っている人なら緋色でいいと思いました。また、明和町の「斎王まつり」を始め、京都・土山・葵祭などの斎王はどこも長袴なのですが、切袴にすると動きやすくなるし、乗ってしまえばわからないので、これはこれで一つの見識ですね。

 斎王の展示コーナーは「斎王制度のあらまし」として群行や伊勢神宮参宮などの地図データの紹介と文章による説明、奈良時代の斎王年表などを、本館のホームページから再構成して展示していました。斎王について多くの人に少しでも知っていただくのは大変いいことです。ただ、斎宮という施設と、その遺跡があるんだよ、ということにもできれば触れていただきたかったものです。

 さて、斎王行列は三丁目劇場という岡山の繁華街にあるイベントスペースから、午後1時半にスタートして、天満屋前を通りながら表町商店街など目抜き通りのアーケード街を練り歩き、桃太郎大通りと呼ばれる駅前通りに出て岡山駅まで、約2キロから3キロくらいの行程です。岡山市といえば人口70万人を数える中国地方最大級の都市、そうした所の目抜き通りを斎王が行く、というのは今までになかったことです。

 その行列は総勢50人ほど、途中天満屋前からは10人ほどの稚児行列が前に付きました。雅楽を流しながら、エンドレスで神宮展記念の斎王行列だよ、という案内もしつつ、人通りの多いところを歩くので、それなりに華やかに目立ちます。特に斎王の乗った葱華輦(そうかれん)はやはりよく目立つものです。しかし、中身は、あれ、という感じの所が少なくありませんでした。特に、斎王行列に15人もの白拍子がいるのはどうしたわけなのでしょう。たしかに男装の女性を入れると華やかではいいものなのですが・・・。

 また、何より行列自体を紹介する配り物がありません。「斎王行列」「伊勢神宮展」などの旗を持ちながら歩いているとはいうものの、道行く人は「お姫様の行列だなー」以上のことがわからないでしょう。これでは伊勢神宮展と斎王の関係や、斎王がどんな人かもどの程度わかったか、いささか疑問ではあります。

 その他には市女笠(いちめがさ)・むし(「台」の下に「木」)垂衣(むしのたれぎぬ)、つまり笠とベールで顔を見えなくした壺装束(つぼしょうぞく)の女性たちが数人、露頭で壺装束の女性が三人、輿を担ぐ(実際には輿の乗った台車を押す)駕輿丁(かよちょう)が黄色の装束で数人。さらに文官直衣(のうし)と、武官直衣姿の男性が数人、狩衣(かりぎぬ)姿も含めて男性の数はそう多くないようです。

 30分ほどで天満屋まで来ると、小雨になりました。ここのアーケード下で参加者へのミニインタビューが開かれました。伊勢神宮の遷宮事業の簡単な紹介の後、斎王が今から千年ほど前に、伊勢神宮に仕えていたこと、京都からこういう行列を組んでいったこと、などをごく簡単に紹介して、関係者インタビューに入ります。ここではじめて、顔を出していた女性が内侍と女別当だったことが明らかになります。そして、笠を被っていたのは「物詣姿」、男性は「直衣姿」「褐衣(かちえ)姿」と紹介され、「白拍子(しらびょうし)」とともに衣装のサンプルとして歩いていただけらしいことも明らかになりました。つまり残念なことに、この斎王行列には、斎宮の女官や斎宮寮の男官はほとんど関与していなかったのです。あぁ、もったいない。

 ここで待っていた牛若丸風の子どもたちが前について出発、お母さん達もついて歩くので、行列がさらに華やかになります。アーケードから駅前通り(桃太郎通り)に出て左折する頃には雨も上がりました。行列は駅前通りのバス待避線を粛々と進んでいきます。人手も交通量も多いので、かなりの人が振り返って見ていて、「お姫様だー」という声も上がります。それなりの宣伝効果はあるようですね。しかしこれだけの人が見ているのに、パンフレットやリーフレットといった配り物がないので、どうも何の行列かわかっていない人が多いようです。関係者らしき緑のジャンパーを着た男性が、「千年前にこんな行列で毎年京都から伊勢に行ってたんです。」と説明しているのも聞いてしまいました。えー・・・。

 そんなこんなで、約1時間40分で岡山駅前到着。ここで事務局の挨拶と天満屋前と同様のインタビュー。高校生の斎王さんは、「重かった」「責任を感じた」など、大役を果たしてヤレヤレ、といったすがすがしい表情でインタビューに応じていました。

 考えてみれば、神宮に関係する野外イベントでいちばん華やかなのは斎王行列なのです。今から20年前には斎宮や斎王はまだわからないことが多かったし、地域の斎王イベントもほとんど出来ていませんでした。今回の岡山の斎王行列は、京都の野宮で行われている秋の斎王行列と同じ葱華輦を使っていたと思います。おそらく衣装もそうなのでしょう。つまり、それなりに予算があれば、斎王行列は20年前に比べてはるかに作りやすくなっているのです。なおこれからも、どこかで斎王行列が出るのかもしれません。注意して見ていきたいと思います。

 本館にとっては、重要な広報の機会にもなりますから。

(学芸普及課 課長 榎村寛之)

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