第89話  祓川三たび

 夏の恒例行事となりました祓川の展覧会を、今年も7月14日(土)~29日(日)に博物館のエントランスホールで行います。祓川の魚たちの展示も三回目となりますが、毎年多くの皆様に助けられながら、何とか確保しているありさまで、つくづく幅広いご協力に支えられた展覧会だなぁと思います。
 で、ここでは、展覧会ではなかなか並べられない生き物についてご紹介を。
 祓川という川はタナゴをはじめ色々な淡水魚がいることで知られていますが、棲んでいるのは小魚ばかりではありません。最近、近くのある小学校で生物調査をした時には「祓川には大きな主がいるって聞いたのですが本当ですか」という質問が飛び出しました。主と言われるほど大きな魚がいたらすてきだなあ、と思いますが、実際に博物館よりやや下流に下り、やや水量が増えたあたりでは、数十㎝はありそうなコイの魚影を見ることができます。水が澱んで水量も多い所は、コイが大きく育つのに適した環境なのだそうです。また、祓川を保全するボランティアの方からは、60~70㎝もある大きなスッポンを捕まえたことがある、という話も聞きました。これもなかなかロマンのある話です。
 一方、昔から祓川で釣られていた魚として知られているのはウナギです。今でもウナギの罠で獲っている人もいるらしく、隠れた祓川の大物です。
  また、大物ではありませんが、祓川には、ヨシノボリやドンコといったハゼの仲間も割合に見られます。ただドンコは「飼育しようと思って採集してきた魚の中に、この魚一匹が入っていれば、最後はこの魚だけとなる(滋賀県立琵琶湖博物館ホームページ『魚類図鑑』より)」というほどの魚食魚なので、他の魚たちと一緒に飼うわけにはいきません。ややグロテスクな外観をしているので、男の子には人気がありますが、展示するのは大変なのです。
 一方、祓川では、アユやヤマメなどの魚はほとんど見られません。これらは祓川本流の櫛田川の、さらに上流の渓流域でないと定住していません。祓川で捕まるアユは、海から帰って川をさかのぼり、これから大きくなろうかという小さい物が上流に行く途中で引っかかった、というものばかりです。
 そして祓川下流域になると、水はさらに澱み、左右の川岸にも泥の量が増えてきます。こういう満ち潮になると海からの水が混じる汽水域では、博物館周辺とはまた違う光景が見られるようになります。その典型が、泥の堆積した川岸に無数の穴が空いている所です。これらの穴はまずカニの巣で、足まで含めた身体の幅が5㎝から10㎝程度のカニが、それこそ足の踏み場もない位、ひしめき合って暮らしているのです。それはまさに干潟の光景。この泥の中にはどのくらいの命が隠れているのだろうと考えてしまいます。
 このように、実に豊かな命を育む祓川ですが、水質は「やや汚い」ランクなのだそうです。ただ、やや汚いというのが生物相の豊かな川の基本条件なのだそうで、他では見られない河畔林から落ちる落葉や虫が小魚やプランクトンの餌となり、それがさらに大きな魚を育成していくという連鎖になるので、落ち葉一つないきれいすぎる川というのは、中流域では考えものなのだそうです。もちろん家庭ゴミや機械ゴミの投棄などは願い下げですがね。
 さて、今年度はこうした祓川の魚たちや、河畔林に暮らす鳥たちも、ご提供いただいた写真をもとに紹介していきたいのですが、それに加えて、三重県埋蔵文化財センターのご協力により、主に川の右岸、つまり東側に拡がる弥生時代を中心とした遺跡群も紹介しようと考えています。祓川河畔では二千年に及ぶ人間と川とのつきあいの痕跡が確認されており、それを紹介していこうというもので、今までまとめて公開することのなかった古い時代の考古遺物が展示に加わります。様々な試みとともに開催されます祓川展、担当者が知恵をしぼった所をとくとごらん下さい。

(学芸普及課 課長 榎村寛之)

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