第84話 斎王人形、世界を駆ける?
斎宮歴史博物館は、その名に反して歴史の浅い博物館なので、斎宮跡の出土遺物以外には、眠ったままになっている館蔵資料、というものはあまりありません。見栄えのするものは、割合に頻繁に展示をしている方ではないかと思いますし、来年のお正月には、館蔵品リクエスト展も行われるはこびになっていますので、また名品をお目に掛ける機会が増えることになると思います。
しかしそれでも、日頃お客様の目に触れないものがあるわけで・・・実は斎宮博には、館蔵品としてカウントされていない、展示可能な資料がいるのです。
博物館の常設展示室には、斎王・命婦・武官・童女・童男・そして後ろ姿の斎王、といった人形たちが展示されています。これらの人形は、衣装考証を行い、王朝風を意識したやや古風な顔を付けたもので、いわば「実物大の京人形」です。ところがその他に、マネキンに略式の時代衣装を着せて、化繊のカツラをつけた十二体の人形たちがいるのです。
彼らは博物館の映像展示室の舞台裏にいた、演出効果のための人形で、紗幕の向こう側のターンテーブルやセリの上に置かれ、一回の上演につき、十秒程度スポットがあたり「出演」するのが仕事でした。そのため、ホログラムと間違えられることもしばしばある、という位しか登場せず、現役当時は、細部の出来はほとんど気にされていなかったのです。
しかし、映像展示「伊勢の野の栄え」が更新されるにあたり、彼らは失業してしまったのです。そのため当初は廃棄処分になるはずだったのですが、捨てるのも何だし、として今も保管されているのです。
ところがこの人形が、博物館のPR用には意外に役に立っています。博物館の存在を知っていただくための展示物として、館のエントランスホールの記念撮影用や、県内各地への出張PR要員として活動するようになったのです。
さて、その人形たちに新しい仕事が来ました。伊勢市のサンアリーナで行われる「新体操ワールドカップ」の会場で、三重県関係の展示をすることになり、斎宮博の紹介コーナーも作っていただいたのです。
ワールドカップ会場で斎宮をPRするのには何がいいか。常時監視されるわけではなく、人通りも多いので、見て、さわってもらって、それなりに見栄えのするもの、ということから選ばれたのが、白の小忌衣(おみごろも)を着て、禊をするマネキン斎王など2体と、束帯姿の顔出し記念撮影ボードだったのです。
ワールドカップ自体は好評だったようで、おかげさまでこの人形たちも記念撮影の対象としてそこそこ人気を集めていたようです。
そして海外に発信されたWEB情報の中には、Japanese Dollと題された、斎王人形の写真が・・・。
流石にこれは博物館でも驚きました。
まさか博物館資料の中で世界デビュー第一号がこの子だったとはねぇ。
(学芸普及課 課長 榎村寛之)