第64話  斎宮百話 再開いたします

 お久しぶりです。斎宮からいろいろな話題をお届けする斎宮百話。公務多忙につきしばし停滞していましたが、再び動き始めました。
 再開第一回目は、花の話から。
まず、第51話で採り上げて、そのままになっていました二月に咲くサクラの話。あのサクラはその後、樹木医の先生に確認していただきました。するとやはり、ヤエザクラではなく、カンザクラ(沖縄などで咲くヒカンザクラとは別)といって、二月に咲くサクラの種類だと判明いたしました。苗木のサクラは、葉も花もないので区別がつきにくいのだそうで、たまたま卸す時に間違うと、幹がある程度太くなり、花が咲くまでわからないことが多いのだそうです。
というわけで、不思議なサクラではなかったのですが、珍しいサクラなのだそうです。
 さて、今回はもうひとつ花の話題。
 この時期、博物館まわりの公園に変わった花が咲いています。高さ30~40㎝程度の細い茎の先端に青い花が5つほど横向きについています。花は小さくて、一本だけなら全く目立たないのですが、これがなんと、何百本と群生するのです。その結果、例えば、博物館前で修景復元されている塚山古墳(方墳、つまり台形のお墓ですね)の一面が薄い青紫に染まっているような光景が見られるのです。
 この花、以前から見られてはいたのですが、今年は特に目立っているようで、お客様からしばしば問い合わせもあります。ところが、だれも名前を知らなかったのです。よく見るのに名前を知らないということは、最近増えた外来植物かなぁ、などと言っていたのですが・・・。 
 本館では、この2月よりエントランスホールで、花の展示を始めており、これまで盆梅、いわひば、サクラソウ、長生蘭などを展示しています。この展示は、地元明和町の公民館が開いている園芸講座にご協力をいただいているのですが、その講師をされている上田茂夫さんならご存じだろうと、お尋ねしたところ、ゴマノハグサ科のマツバウンランという名だと教えていただきました。
 で、インターネット(便利ですねぇ)で調べたところ「マツバウンラン愛好会」というサイト(ホームページ)もあったので、色々なことがわかってきました。
 まず、外来種というのは当たりでした。故郷は北アメリカ、学名は「リナリア カナデンシス」と言うのだそうで、カナダにゆかりがあるリナリア(そういう花があるそうです)という意味でしょう。ただし日本で最初に確認されたのは1941年、京都市においてといいますから、60年以上昔に渡来していたことになります。しかし近年分布を広げていることは間違いないようで、図鑑などでは近畿以西に多いとしているのに、サイトでは東北地方での確認例も報告されていました。
ウンランは漢字では「海蘭」で、やはりゴマノハグサ科にそういう植物があり、似ているのだそうです。しかし写真でみる限り花はだいだい色で、あまり似ていないようにも思えます。なお、蘭といいますがランの仲間ではなく、きれいな花をさして「ラン」という例はしばしばあるそうです。
そして、茎に見えるのは花茎というものだそうで、本体はその根っこに、地をはうように生えています。松葉というのは、葉の形が松葉に似ているという説が多いようなのですが、本体が細長く松葉を思わせるから、とかいう説もあるようです。
「造成地などの荒れ地やグランドの端などに生育する」と紹介しているサイトもあり、線路端や道路の舗装の割れ目から生えることもあるようで、比較的悪い土地でも増えやすい、ということです。そういえば咲いているのは博物館まわりの遺跡を埋め戻した上に土盛りをした所や、最初に紹介した修景した古墳など、まわりの田畑や林に比べて、植物の生育環境としてはそれほどよくない所ばかり、なるほど自然とは正直なものですね。

(学芸普及グループリーダー 榎村寛之)

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