第55話 斎宮百話 三重県って?
斎宮のあるのは三重県です。
じゃ三重県はどんな所なのか?
これが意外に知られていないのです。という話。
最近ネットサーフィンをしていて見つけたあるサイトで、三重県は近畿地方か東海地方か、という意見を募集したものがありました。結果は、投票総数111票で、東海55票、近畿56票、何と1票差で、世間では三重県は近畿地方なんだそうです。
そしてそのサイトの主催者さんがお調べになった範囲では、
・津地方裁判所から控訴すると名古屋高等裁判所に行く。
・受験研究社の「小学校高学年向け・社会自由自在」の地図では、三重県は近畿地方に分類されている。
・地方行政連絡会議法では、三重県の所属しているのは近畿地方行政連絡会議ではなく東海地方行政連絡会議である。
・広辞苑の「三重」の説明には「近畿地方東部の県」とある。
・Yahoo!の「地域情報 > 日本の地方 」では東海に分類されている。
・Infoseekの「トラベル→日本の地域情報」では近畿に分類されている。
と、やはりバラバラなのだそうです。
(ちなみに三重県は、地元では、愛知・岐阜・三重の東海地方三県のひとつとするのが一般的ですが、そのサイトの投票では、東海地方なら静岡県が入るはずでしょう、というのが、「東海地方」以外からの一般的意見だったようです。うーん…)
※ ※
さて、三重県は南北に長い県です。どのくらい長いかというと、
○北の端の岐阜県養老の滝近くから南の端の和歌山県の新宮直前、鵜殿村まで170km余り。
○JRの駅で関西本線桑名から、紀勢本線新宮の一つ手前、鵜殿まで50駅。
○紀勢本線の特急「ワイドビュー南紀1号」で桑名から新宮まで2時間47分。
○県庁所在地の津駅から南の端まで約120km。特急「ワイドビュー南紀」で2時間17分
○高速道路は勢和多気インターまでしかないので、車ならもっとかかる。
さらに具体的にいえば、津から東京までは近鉄と新幹線のぞみの連絡で、乗換え時間を見こんでも3時間程度なので、県内を移動するのに、どうかすると東京に行くより時間がかかるということもあるのです。
そして東西はといえば、志摩半島の先っぽ、大王崎から見ていくと、一番遠い西の端は狸で有名な信楽の手前、阿山町まで約100km、これも意外に長い。
つまるところ、意外に大きい県なのです。何しろ旧国名でいうと、伊賀・伊勢・志摩・紀伊の四か国が入っているのですから。
ところが、この県の形が意外に正しく理解されていないようなのです。例えば県外の声として、
えっ!四日市は愛知県じゃないのか?
えっ!志摩半島より南側も三重県?
えっ!津市ってこんなとこ?
えっ!鈴鹿サーキットは鈴鹿山中じゃない?
えっ!伊賀は奈良県じゃないの?
えっ!長島温泉も三重県?
えっ!熊野市も三重県?
などなど…。
伊勢神宮が三重県にあることは割合に知られています。また、伊勢神宮が志摩半島の海岸線近くにあるらしい、ということは漠然と知っている人も少なくないようです。しかし、その三重県の範囲は、と言われると意外に知らない、ということが多いのです。何しろ内幕をばらしてしまうと、三重県に住む人ですら、県北部に住んでいる人は、志摩半島より南の県南部にはほとんど行ったことがないし、形も知らない、ということが少なくないのです。
さらに複雑なのは、伊賀地方です。何しろ伊賀は、もともとが四方を山並みに閉ざされた盆地で、自己完結性が高く、経済的にも文化的にも大阪のベッドタウンになっているので、伊勢とは生活圏がほとんど重ならないのです。たとえば考古資料を見ても、伊賀の特異性ははっきりしています。伊勢・志摩国の平安時代後期から室町時代にかけての遺跡では、伊勢湾周辺に広く分布する尾張で作られた粗製無釉の椀や皿、通称「山茶碗」や「山皿」がごく普通に見つかります。ところが伊賀では、平安時代後半から近畿地方で爆発的に流行した「瓦器」と呼ばれる日常の容器が使われている。
そして特に注意書きが必要なのは志摩よりさらに南の、東紀州地域です。三重県には熊野市がありますが、熊野三山、つまり熊野新宮大社・熊野本宮大社・熊野那智大社は熊野市にはありません。熊野三山は和歌山県にあるのですが、熊野市のあたりから那智の瀧あたり、そして奥は熊野本宮あたりまでが、「熊野地域」なのです。この地域は、どの地方にも属さず、あえて言えば和歌山県南部と一体になる、一種独特の個性を持っています。
この地域は県内でも最も地味だったのですが、近年、新たに注目を集めはじめています。そう、いよいよ世界遺産に登録されることになった「熊野古道」があるのです。
というわけで、三重県はひとことでは括れない県なのでした。もっとも、どこでも実情は似たようなものかもしれませんがね。
では現代の斎宮はどういう文化圏なのでしょう。
① <b>言葉:</b>斎宮で使われる言葉は三重県の言葉の中でも、松阪の言葉に近いようで、アクセントは関西系です。これは三重県近畿説の根拠の一つになっており、愛知県との県境の長島町、つまり戦国時代、長島の一向一揆が有名だった長島と、志摩地域の南部・東紀州地域を除いて、三重県は原則として関西(京都)アクセント地域なのです。面白いのは、「窓が開く=開くことができる」を「窓が開かる」、「窓が開かない」を「窓が開からん」と言うのですが、これは文楽の言葉などに見られる、古い京阪の言葉なのです。ところが一方では、名古屋地域の方言の典型である「みえる」を「する」の尊敬語として使う(つまり、尊敬語「○○される」「見られる」は、「○○してみえる」「見てみえる」になる)のは、ごく普通に行われており、公文書などに使われることもあります。部分的には名古屋的用法も入っているわけです。
② <b>仕事:</b>津・松阪・四日市・伊勢などに通勤するのが普通です。斎宮のある明和町は名古屋のベッドタウンの最南端とも言えるようで、まれに名古屋に通っている方もいらっしゃいます。
③ <b>食事:</b>斎宮は愛知の味噌カツ文化圏でもきしめん文化圏でもないようです。ちなみにうどんは溜まり醤油に漬ける伊勢うどんで、大阪のきつねうどん文化圏でもないようです。
④ <b>お出かけ:</b>奮発してお出かけするのは名古屋も大阪もあり。そんなに時間は変わりません。松阪から近鉄特急で、名古屋1時間10分、大阪1時間30分。
⑤ <b>斎宮に来られるお客様:</b>他府県の一位は愛知県、二位は大阪府。四日市・桑名周辺より愛知県、伊賀地域より大阪府からの来館者が多いようです。
⑥ <b>テレビ・ラジオ:</b>愛知県からの情報を受けています。
ざっとこんな感じです。
(主幹兼学芸員 榎村寛之)