第51話 斎宮百話 今年も逢えました
お寒うございます。これを書いているのが1月28日。ここ2週間ほどの寒波は大変でした。斎宮でも雪が積もるわ、道が凍るわの大騒ぎでしたからね。
ところがこの寒いのに、旧暦の正月一日を過ぎると、自然界はきっちり春支度にかかっているようで。
いつのまにやら、博物館の南側広場の梅並木では、早咲きの紅梅がほころびはじめました。
そして、博物館正面に頭を飛ばされたピラミッドか四角いプリンのように「そびえたつ」芝生の山、方墳の「塚山2号墳」の前にある高さ3メートルほどの小さな木にも花が咲きました。ところがこれは梅ではないのです。
「桜」なのです。
桜といえば「弥生の空」、つまり旧暦三月の空に見渡す限り咲く花、ということで、春の花として知られています。一方梅は正月に咲く花とされているので、今なら一月末から二月初め頃に咲いていい花です。
平安時代の勅撰和歌集を見ると、しばしば冬の歌に、梅を詠んだものが見られます。春、つまり新年を待たずに梅が咲いた、という歌なのですね。今でいえば一月上旬に梅が咲いた、という所でしょう。しかし桜となると、なかなかそういう事例は見られません。
ところが専門の樹木医の方にお話をうかがうと、花というのは、必ずしも季節通りに咲くものでもないようで、秋や早春に桜が咲くことはたしかに珍しいけれど、花は気象条件が揃えば咲くのであって、ものすごく珍しい、というわけではないのだそうです。なるほど、冷夏の後だった昨秋には、館の守衛室前のソメイヨシノに少し花がついていましたっけ。
ところがこの桜は、何と三年連続して早春に咲きはじめているのです。こう、今年も冬の桜に逢えたのです。
しかし、いったいどんな種類の桜なのでしょう。じつはこの桜は、もともとさる所から「奈良八重桜」として寄贈された若木だったのです。ところが、八重桜は四月に咲く遅咲きの桜で、その名のとおり花びらが重なり合った桜なのです。しかし花はあまり重なっているようには見えないし、とくに八重桜独特の、毬のように丸くなった花形ではないのです。もしかしたら種類が違うのじゃないか、と寄贈元に問い合わせてみると、葉っぱから見てソメイヨシノではないことは間違いないが、桜の種類は花が咲かないと最終的には確定できず、寄贈した時には花をつける以前の若木だったので、奈良八重桜ではないかもしれない、とのことでした。つまり今の所、正体不明の桜なわけ。
さらに調べてみて驚いたのは、園芸に興味のある方には常識なのでしょうが、桜にはヒマラヤザクラやジュウガツザクラなど、秋から冬にかけて咲く、あるいは春と秋に二度咲く桜もあるのですね。でもこの桜のように、一月から二月にかけて咲く桜、というのも特にないようで、やはり決め手にはなりません。
いずれにしても、なかなか珍しい桜の樹(個体)であることは間違いないようです。今は三つほど咲いているだけですが、これからだんだん見頃になってくるでしょう。博物館南側の梅林でも、もうすぐ紅梅・白梅の咲きそろう時期になります。いよいよ花の見頃のシーズンがやってくるのです。
というわけで、この桜の種類は、樹医さんの会にお願いして調べていただくことになりました。その結果はわかり次第このHPで紹介するつもりですので、請うご期待!
(主査兼学芸員 榎村寛之)