第36話 「斎王群行」江刺ロケ報告 その2
さて、斎宮百話江刺ロケシリーズ。第3回はいよいよ出演者の紹介です。
まずは斎王良子内親王と藤原資房から。
① 斎王になっていく女の子
斎王群行の主役は何と行っても斎王。その斎王役を演じたのが、二十人以上のオーディションから選ばれた追掛智美ちゃん(12)。この役の大変なのは、いつきのみや歴史体験館から運んだ正絹の裳唐衣(もからぎぬ、つまり十二単)を着けなければならないことです。実は十二単は、普通の大人の女性でも、二時間も着ると音を上げるほど重く(十五キロほどあります)、特に立ったままでいるとずっしりと肩に負荷が掛かって、頚動脈が締まり、激しい肩こりから、下手をすると失神するとも言われるほどなのです。
ところが「別れの御櫛」の場面の撮影では、ほとんど一日の間、出ずっぱりで着ずっぱり。しかも歩き方や立ち居振舞いに細かく所作指導が付くので、かなり動かないといけないのです、それも今までしたことがないような重厚で品のある動きを。
所作指導は、大河ドラマの指導を数多く行い、このロケの後は何とオーストラリアに飛んで「ラスト・サムライ」に出演のトム・クルーズに所作指導をするという、猿若流家元の舞踊家、猿若清三郎先生。平易な言葉と動きですが、とてもレベルの高い指導です。しかし、智美ちゃんもよく付いて行き、みるみる上達していくのがわかります。
同行のお母さんが心配する中、しんどくないはずはないのに、一言も泣き言を言わず、ついに最後まで集中力を保ち続け、数多い撮りなおしにもめげず、見事にやりとおしました。ここは確実にウルッと来る場面になっています。
そして翌日は「禊」のロケ。すでに北風も吹いて冬、スタッフがコートとカイロで重装備している中、白の単装束で素足という「軽装」でロケ地の北上川に臨みます。待機時間はモコモコに厚着して焚き火のそばで「お地蔵さん」といわれていましたが、いざ本番となると、ちゅうちょ無く水の中に足を漬け、清新な斎王さまに早代わり…水の中でスモークを炊いたり、風を送ったりしているスタッフの間からも、すごい子だね、と感心の声がしきり。この時のアップの映像の美しさはぜひお見逃しなく。
この根性に後押しされて、スタッフ一同、夜討ち朝駆けの強行日程をこなしていけたのでした。
② 資房さんはロマンチスト
藤原資房を演じたのは堀口達也さん(31)。身長一八〇cmのさわやかなスポーツマンです。彼は最初は藤原資房役ではなく、後朱雀天皇役のオーディションにノミネートしていました。しかし、馬に乗れることと、古武術に通じていて、指導ができるほどの殺陣の名手であることから、その切れのいい動きを見こまれて資房に抜擢されたという経緯があります。神経質そうな資房、という雰囲気に合わせ、出された条件は、それ以上日に焼けないこと、でした。
彼の芝居は、舞台を得意とする人だけあって、やや押しが強い嫌いがあるものの、とにかくメリハリがあって、身長以上に大きく見えるのです。そのため、儀式ばった場面では期待通りの良い芝居を見せ、貴族の衣装「衣冠」もきれいに着こなして、言うところの「座っているだけで絵になる男」になりました。そしてもう一つ、大変声の通りが良いため、ナレーターとしての資房にも、何の問題もなく自然に決まっていきました。
しかし、群行ですから、格式だけではいけません。深夜、早朝、雨の中、川の中で馬に馬に乗るというのもなかなか大変なことです。しかも貴族の姿で。平安時代を舞台にした映画は少なくありませんが、考えてみれば、衣冠姿で馬に乗った人、というのはかなり珍しいのではないでしょうか。
目が大きくて背が高い、という所から、一見難しそうにも見える達也さんなのですが、笑うと途端にクシャっと人懐っこいはにかみやに一変します。そして、いつもロケ中のホテルでも、決してギターを手放さないロマンチストでもありました。
平安貴族の通常のイメージからちょっと離れた、実務派官人的でロマンチストの藤原資房、今回のもう一人の主役にどうぞご注目下さい。
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この姿で一日がんばりました | これが「お地蔵さん」です。 |
猿若先生(中央)から演技指導を受ける堀口さん(左)たち
(主査兼学芸員 榎村寛之)