第35話  「斎王群行」江刺ロケ報告 その1

 さてそういうわけで、2002年10月21日、ロケ隊が江刺藤原の郷に入り、機器設定を開始してはじまりました。期限は最大10月28日まで。主要な部分は27日まで撮り切らなければならない、まさに五泊六日の群行とほとんど変わらないスケジュールなのです。しかもこのロケでは、撮影したハイビジョン画像をデジタルデータ化して(つまりすごく重い)直接ハードディスクに保存し、直接編集できるという特殊なカメラを使っているので、何テイクも本番を撮って、編集段階でより良いものにしていく、というコンセプトなので、大変濃密な撮影となりました。
 今回はその中で、撮影風景から。
 一見自然に撮影しているように見えても、その背景には色々なものが隠されているのです。

 例えばこれは斎王の禊の場面で、大きなクレーンはカメラマンが乗るためのものです。出演するのは斎王だけなのですが、まわりには、制作をはじめ、撮影・照明・衣装などのスタッフが待機しています。

 川の中に目を転じると、スモークや照明担当のスタッフが水の中に…気温はたしか5度くらい、とにかく寒い朝なのです。しかもスモークは風があると、すぐにNGなので、何度も何度も焚きなおしになります。本当にご苦労様。

 同じ場所で川向こうでの撮影になります。クレーンはこうして使用するわけですね。監督もこちら側の岸にいるので、向こう岸で調整している「現地スタッフ」とは携帯電話でやりとりをして進行していきます。

 さらに接近して正面から撮る時は、こうして川の中に櫓を組みます。カメラマンをはじめスタッフはボートで川を渡り、照明さんは水の中、裸足の人もいるのに驚かされます。

 満月?いえいえ夜間撮影用の照明です。4トントラックが何台も待機して、巨大な発電機を積んだものとクレーンを接続し、江刺藤原の郷の中空10m近い所に照明を組み上げているのです。

 その下ではこんな撮影が行われていました。レールの前に馬に乗った貴族の姿、実は馬の動きを自然に見せるため、レールを敷いてその上に置いたカメラをスライドさせ、平行して撮影しているのです。

 設定では、何の用意もなく、ガラーン・シーンという効果音がぴったりの鈴鹿頓宮なのですが、その廻りにはこんなにたくさんのスタッフが待機していて、怒号さえ飛び交う緊張感の中で仕事をしています。しかしチームワークはばっちりで、着々と日程をこなしていきました。

 「走れー!!雨が来るぞー!」鈴鹿山を遠くに臨む所を歩く一行の姿を「引き」で撮って障害物のないロケ地点、ということでスタッフが探してきたのは、なんと宮沢賢治の小説や詩で有名な「種山ケ原」。今にもこぼれてきそうな曇天の中を江刺藤原の郷からバスで40分、舗装もされていない山道を突っ切って、撮影時間はわずか10分。バスに戻ったとたんに大雨になりました。後から出演者から「バスに乗せられて、ついたと思ったら走らされて、一瞬歩いてすぐにおしまい、いったいあれはなんだったの」の声。でもいい場面になりました。

(主査兼学芸員 榎村寛之)

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