第34話  「斎王群行」ロケの裏話①

 さて、「斎王群行」は、すでにお伝えしましたように、平安時代の斎王の旅を再現した映像です。そしてこの映像には、重要なコンセプトがありました。それは、
  美しい秋の中を行く華麗なる行列
だったのです。そのため、撮影期間はおのずと限定されてきます。そして撮影場所も。そうした中で八月いっぱいをかけて絞り込んだ候補地が、
 ①昔「炎立つ」という大河ドラマのセットとして作られ、斎宮歴史博物館映像展示「今よみがえる幻の宮」でも使用した岩手県江刺市の「江刺藤原の郷」
 ②平安神宮・大覚寺など京都で時代劇を撮影する際に使用しているスポット
 ③鈴鹿山・伊勢神宮・斎宮跡など関連する所
などでした。ところがいざロケハン(ロケーションハンティング)をしてみると、大変な問題が山積みだということがわかってきたのです。
 例えば、斎王が禊をした葛野川、つまり桂川にかかる嵐山の渡月橋は、都を立った斎王がその夜に渡る勢多橋の有力候補地だったのですが、夜間でも車の通行量が多い。仮に撮影時間だけ車を止められても、周辺の住宅の明かりはどうするか、また仮に深夜に撮ったとしても、川沿いの道路にヘッドライトを点灯させた車が走ったらすべてぶち壊しになる、という具合で、あきらめざるを得ませんでした。
 こうして候補地を探していくと、日本という所は、いかに時代劇撮影に向かなくなっているか、が次第にわかってきたのです。
 この映像は群行がメインですから、当然長い引きで撮る映像が多くなります。とすれば問題になるのは、電柱と送電線。どんな田舎に行っても、この国は道路の側に電線があって、所々に巨大な送電のための鉄塔が立っているのですね。これを入れずにワイドな風景を撮れる所なんで、実はほとんどないのです。
 そして当然、家が入ってもだめ、車が映ってもだめ、現代人が入ってもだめ…。
もちろん現代のコンピューターグラフィック技術をもってすれば、静止画なら家や人を消すことは簡単なのですが、例えば画面を横切って走る車となると、どうしようもないのです。
 となると、そういう所は、例えば京都なら、人里離れた山奥くらいしかないわけです。しかし、そういう所だと別の大きな問題があります。
 群行を立体的に撮影しようと思うと、上下左右色々な角度から撮る必要があるのですが、そのためには沢山の大型機材が必要です。しかし、山奥にはそうした機材は運べない。そしてそれ以上に問題なのは、馬と牛と牛車を運べない、ということです。かつての良子内親王の群行は、厳しい道の続く鈴鹿峠を、騎馬と牛車で越えようとして大苦戦しましたが、そせれと全く同じことが起こりかけていたのです。
 そんなハンディだらけのロケハンの中、撮影スタッフの皆さんはよくがんばってくれました。こんなところを見つけてきたのです。

ごらんのように、家も少なく、電柱も見えません。日本にまだこんなところがあったんだなぁ…。さて、ここはどこかというと、岩手県江刺市内です。こうした場所を何箇所か確保できたので、主要ロケ地は岩手県の江刺藤原の郷周辺数十キロ圏、環境映像として、京都・伊勢ロケを行うということになったのです。

そんなわけで撮影が始まりました。制作のスタッフ、撮影のスタッフ、照明さん、お衣装部さん、メイクさんなど、一カットの撮影にはこんなに沢山の人が必要になります。クレーンの上にはカメラマンボックスがあって、可動させながら撮影していくのですよ。

今回の映像はドキュメントなので、夜の場面もあります。そういう時は当然夜間撮影になります。レールを組んでカメラを載せた台車を載せて、横面から動きを撮っていくための準備をしています。

色々な角度から撮影しなければならないのは山の中の場面でも同じこと。鈴鹿山の場面の撮影でもクレーンが大活躍です。すごい山の中に見えるでしょう。実は江刺市郊外の公園の一角なのです。

では室内撮影はどうかというと、やっぱりこんな具合。優美に見える王朝絵巻の影には、沢山のスタッフさんの献身的なご苦労があるのでした。
 では次回はもっと具体的なお話をいくつかしていきましょう。請うご期待。

(主査兼学芸員 榎村寛之)

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