第12話  キノコが生える・・・こともある

 斎宮歴史博物館の建物は、遺跡の上に立っています。だから、遺跡を埋め戻した上に、1.5mほど土盛りをして、その上に建物があります。この建物の柱が地面には一本も打ちこまれていないことは、あちこちに書かれていますが、それとは別の話。

 博物館の正面出口を出て南の方は一面の芝生広場になっています。ここは「古里ひろば」という名で、斎宮の調査が始まった頃に、奈良時代の斎宮の一角が見つかっているという、記念すべきところでもあるのです。このあたりは台地の上にある斎宮の遺跡の中でも標高の高いところ(海抜10m程度)なのですが、実は時々キノコが生えることがあるのです。芝生広場の真ん中に。

 博物館を造った時に、今、芝生広場のあるスペースは、結果的に低地になりました。そのため、博物館のまわりに降った雨は、そこに流れ込むようになったのです。そして、もともと畑にしかならなかったほど乾いていたこの地域が、開館して二年後位には、見事な沢になっていったのでした。

 それはそれで面白い景観だったのですが、この地域を公園化するのは当初からの計画で、やがて工事が始まり、土が入れられて、今に見られるような芝生広場になっていったのです。

 でも、その水の流れの名残があるのか、この芝生広場、結構保水性が高いんですね。そして梅雨明けの7月頃には、やや湿地っぽくなった芝生の間から、時々白い小さなキノコが顔を出すのです。

 今年の梅雨は短くて、夏はいやになるほど暑いので、さすがにキノコは見かけませんが、去年の7月の終り頃には、所々で生えていたものです。
 一寸した?土木工事で、水の流れが変わってしまうと、環境が一変することも多いのですね。これと全く逆の話もあります。

 博物館のある明和町の名物の一つに、天然記念物のノハナショウブの野生群落があります。ところがこれが今から十年ほど前、壊滅に近い状態になってしまったのです。農地改良工事のおかげで、水の流れが変わったため、ノハナショウブ群落のあるあたりの乾燥が進んで、湿地に生えるこの植物には望ましくないようになったためでした。

 今、奈良の平城京に地下トンネルで高速道路を通す計画があるそうで、歴史研究者の方々から反対運動が起こっていると聞いています。長屋王邸跡で数万点といわれるように、平城京の地下は保水性がよくて、木簡などの木製品が大変残っているのです。(千年の都と言われる平安京では、水はけがそれなりにいいために、見つかっている木簡の数は、平城京に比べれば微々たるものです。)そこに水の流れを断ち切るようなトンネルを作ったら、せっかく保存されている木簡が乾いて消滅してしまう。というのが最大の懸念なのです。(なにしろ土の中で残っている木製品は、水につかっていないと、微生物に食べられてしまうし。いわばスポンジみたいになっているので、乾けばあっという間に干物同然)

 たしかに水の流れというのは馬鹿にならんなぁ、と、キノコの生えない芝生広場を歩きつつ思っている今日この頃でございます。

(榎村寛之)

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