火鉢は炭火を用いて手を温めたり、また中に鉄や陶器の三脚の輪形の五徳(ごとく)を入れて、湯や茶を沸かしたりすることができる暖房具です。こうした火鉢から長方形で、中に小さな炉を入れた長火鉢が江戸時代から見られるようになりました。
長火鉢は、座敷などに据えて置くもので、座る人の場所が決まっており、下に引き出しをたくさんつけた収納家具の役割もみられました。形式的には、箱状の関東型や炉の周辺に縁をつけたような関西型が見られます。関西型の長火鉢には、縁に酒器や喫煙用具、湯茶の道具を載せることができるため食卓の機能も持ち備えています。長火鉢は、暖房具と炊事具を兼ね備えるようになって普及しますが、なかなか全ての家庭で用いられることはなかったようです。
三重県下の長火鉢の使用状況を見ていくと、北勢地域では縁のない箱状の関東型が多くみられたと桑名市長島等の報告があり、また中勢地域以南の津市や松阪市・伊勢市や鳥羽市、また伊賀市等からの報告では、縁のある長火鉢が中心となって使用されていました。三重県は、火鉢文化の東西の接点に位置していることが、こうした資料から知ることができます。ただ、尾鷲市内では箱型の火鉢が使用されていたとの報告があり、こうしたことは尾鷲の港町の機能を持つことから交通や経済などの関係から生まれた地域として位置づけられるものと考えられます。
今回、紹介する長火鉢は、津市内で昭和30年頃まで使用されていた縁のある関西型の物です。長火鉢は、全体が欅造りで、縁は幅11センチ、高さ7センチやや厚で造りで、正面下には3つの引き出しあり、炉に当たる部分は銅版で四方を張り、床の部分の銅板は残っていない中心部には瓦製の火床が置かれていますが、灰は現在きれいに掃除されて残っていません。(FW)
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