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三重県総合博物館 > コレクション > スタッフのおすすめ > シバナ

シバナ(Triglochin maritimum L.

和 名  シバナ
シバナ さく葉標本(伊勢市二見町産)
学 名  Triglochin maritimum L.
分  類

種子植物門 単子葉植物綱

シバナ科 シバナ属

資料形態  さく葉標本
資料番号  MPMP 36764
産  地

三重県度会郡二見町

(現・伊勢市)

採 集 年 1988年
解 説

 シバナは河口などで見られる海水の塩分を含んだ湿地(塩性湿地)に生育する多年草です。名前は生育環境を表現した「塩場菜」から来たとされています。 北半球の温帯に広く分布し、国内では北海道から九州にかけての広い範囲でみることができます。しかし、分布範囲は広いものの、生育環境の特殊性から稀少な植物となっています。県内で知られている生育地としては、松阪市、伊勢市、志摩市、紀北町などの海岸部の数箇所に過ぎません。本来、シバナが好む海岸の塩性湿地は、海に面した三重県ではよく見られる環境でした。ところが、干潟や河口に見られる塩性湿地は、臨海工業地帯造成の最適地でもあり、戦後の高度成長期を中心に多くの場所が埋め立てられていきました。その結果として、河口部の塩性湿地は減少し、このような環境に生育するシバナも減少していきました。そして、現在は干潟の埋め立てだけでなく、河川改修や海岸の護岸工事などによる開発圧にもさらされています。

 シバナの葉は細い線形で、長さは10~40cm、幅は1.5~5mm、これを根元から上方へ多数伸ばします。葉の断面を見ると半月形で、肉厚(多肉質)となっています。多肉質の葉は海辺に生育する海浜植物の特徴のひとつで、海水による塩分や砂浜での乾燥の影響で水分を得にくい環境でも生育ができるように、体内に水分をためておく重要な役割を果たしています。このような特徴を持った海浜植物としてはハマアカザ、イソホウキギ、ハママツナなどがあげられます。 一言で海浜植物といっても、海岸の多様な環境ごとに異なった種類が見られます。砂浜では強い乾燥や砂の移動に対応する地下茎や深い根を持ったコウボウムギやハマボウフウなどの植物、海岸の岩場で強い潮風に耐えるキノクニシオギクなどの植物がありますが、シバナが生育する河口などの塩性湿地の環境はさらに特殊で、満潮時には植物体が塩水に没する環境にあります。このようなところにはフクドやハマサジなど特有の植物が見られ、よく観察すると潮の干満の深さや潮の到達点限界によって明確に生育する植物が変化することがわかります。山地では気温条件などによって山麓から山頂までさまざまな植物種が住み分けていることが知られていますが、山地の植生変化には数100mから1,000m単位の標高差が必要です。これに対して海岸では、標高差数m以下の潮の干満の差や海からの距離などによって植物種が明確に変化します。このことは、海岸には狭い範囲に多様な環境があり、その中に多様な生物種が育まれていることを意味しています。

  河口につくられる干潟や砂浜は、河川上流からの土砂の堆積量と潮流や風向よって常に変化し更新されています。塩分や水分などの科学的要因と砂泥の移動や海水の干満など常に変化し更新される土地条件などの物理的要因が、特殊な海浜植物を進化の過程で生み出しました。河口や干潟は一見すると人にとって役に立たない場所と評価されがちですが、多くの動植物をささえる豊かな環境であることを理解し、評価する必要があります。


シバナの花

塩性湿地に生育するシバナ
 
満潮で水に浸かるシバナ
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