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三重県総合博物館 > コレクション > スタッフのおすすめ > ナンバンギセル Aeginetia indica L.

ナンバンギセル(Aeginetia indica L.


ナンバンギセル(紀宝町)
和 名  ナンバンギセル
学 名  Aeginetia indica L.
資料番号  MPMP 26969
分 類 双子葉植物綱 
合弁花亜綱 
ハマウツボ科 
ナンバンギセル属
採集年  1995年
採集地  三重県上野市(現・伊賀市)
資料形態  さく葉標本

ナンバンギセル(さく葉標本)
解 説

秋の訪れとともに、野原ではススキが穂を出し始めます。この時期にススキの根元をよく探すと、高さ20cmほどの桃色の花が群がって咲いているのをみつけることがあります。これはナンバンギセルと呼ばれる1年生の寄生植物です。この花をよく観察すると、花だけで葉はみられません。ナンバンギセルは葉緑素を持たない不思議な植物なのです。

寄生植物とは、他の植物の幹や根に自らの根を食い込ませ、養分を奪い取って成長する植物です。寄生される側の植物は宿主(しゅくしゅ)または寄主(きしゅ)と呼ばれ、ナンバンギセルはイネ科やカヤツリグサ科、ショウガ科などの単子葉植物を宿主とします。なかでもススキは主な宿主として知られています。ナンバンギセルやネナシカズラのように葉緑素を持たないため、光合成がおこなわず、全ての養分を宿主から得ているものを寄生植物(全寄生植物・完全寄生植物)と呼び、ヤドリギやツクバネのように緑色の葉を持ち、自らも光合成を行いつつ、不足した養分を宿主より得る植物は半寄生植物と呼ばれます。

ナンバンギセルは北海道から琉球まで日本全国でみられ、海外でも中国中南部から東南アジア、インドまで分布しています。ナンバンギセルの地表に出ている部分は花柄と花の本体だけで、茎はきわめて短くほとんど地中に埋没しています。そして、地中の茎には葉緑素のない小さな葉をまばらにつけます。花は79月に咲き、その後つくられる朔果(さくか)の中に0.3mmほどの小さな種子をたくさんつくります。この種子を顕微鏡で観察すると、表面は細かいハチの巣状の構造となっており、風を受けて遠くへ飛ぶのに役立つとされています。また、寄生植物という性質上、運良くたどり着いた場所が宿主となる植物の根元近くであった場合に限って発芽するとされ、宿主の根から出る分泌物に反応し発芽が促進されると考えられています。

ナンバンギセルの名前は漢字で書くと「南蛮煙管」となり、外国(南蛮)からやってきた煙草を吸う煙管(きせる)、すなわちパイプに植物の形を見立ててつけられました。また、古くは『万葉集』(巻十)に「道辺(みちのべ)の尾花が下(もと)の思ひ草今さらになど物か思わむ」と詠まれており、「思草」は尾花(ススキ)の下に咲くことからナンバンギセルと推察されています。ススキとナンバンギセルの関係を的確にとらえ、ススキの下で頬染めながら頭を垂れるように花が咲いている様子を恋に物思う人にたとえるなど、この歌からは万葉人の正確な観察力と豊かな想像力を感じます。また、現在の三重県鈴鹿市石薬師町に生まれ、万葉集や歌学を研究した歌人・国文学者である佐佐木信綱は、自らの歌集に『思草』(1903)の名を与えています。

 ナンバンギセルは全てのススキに寄生がみられるわけではありません。しかも、1年草であるため毎年同じ場所で見ることができるとは限りません。しかし、初秋にススキの根元を根気よく探していくと意外とよくみつかります。みなさんも近くのススキ野原でナンバンギセルを探してみませんか。(M)


短い茎と小さな葉
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