今回は、海浜性の昆虫であるハマベゾウムシを紹介します。
ハマベゾウムシは、1960年に中条道夫(ちゅうじょうみちお)博士らによって新属新種のゾウムシとして発表されました。その論文には、新種記載の基準となる個体(タイプロカリティー)として、津市阿漕浦海岸(採集日 1956年6月3日・個体数35頭)・津海岸(採集日1958年6月22日・個体数5頭)・愛知県内海(うつみ)海岸(採集日1956年8月5日・個体数10頭)の計50頭があげられています。県立博物館で収蔵している標本も新種発見と同時期に津市の海岸で採集されたものです。
ハマベゾウムシは、本州・九州の海岸に生息する日本固有種で、体長は、4mmほどしかありません。体色は、砂浜と同じような茶褐色で、後翅のやわらかい翅が退化しているために飛ぶことができません。津市の海岸付近のハマベゾウムシについて紹介した文献(※1)によると、「1960年以前の阿漕浦から御殿場に続く海岸は、砂質で遠浅の美しい海岸で、毎年3月下旬から夏にかけて多数のアマモが海岸線に打ち上げられるころに成虫が活動をし、アマモの葉を食べているのが多数観察できた。またハマベゾウムシの生息密度の高い範囲は津市阿漕浦から御殿場海岸にかけた3kmの海岸線であった。」と記されています。このことから、かつて津市の海岸にはたくさんのハマベゾウムシが生息していたことがわかります。しかし、1960年後半以降から三重県内では生息が記録されず、「三重県レッドデータブック2005」では県内「絶滅」した種に上げられてしまいました。愛知県や静岡県などでも減少を示していて、各地で「絶滅の危惧」されている昆虫となっています。
では、どうしてハマベゾウムシが見られなくなったのでしょうか?その原因としては、伊勢湾内でエサとなるアマモが減少したことがあげられます。アマモは、海水中にはえる種子植物の多年生草で海藻ではありません。遠浅の海底に「藻場(もば)」と呼ばれる大群落を作ります。「藻場」は、潮流を和らげたり、生きものたちのかくれ場や産卵場所となったりし、水質浄化の面でも重要な役割を果たしています。ハマベゾウムシが数多く生息していた1955年頃には伊勢湾沿岸全域に藻場が帯状に分布していましたが、1975年には松阪市以南と知多半島中部に点状にみられる程度となり、1955年頃のわずか1/100程度に激減してしまったとされています。この原因としては、アマモの生息場所となる遠浅の海自体が埋めたてられたり、自然消失したことや、水質汚濁の影響があげることができます。その原因とされる海岸部の水質汚濁などが改善されきれいな遠浅の海が戻り「藻場」が再生すれば、ハマベゾウムシが三重県内でも再び姿を見せてくれるかもしれません。(I)
(※1)市橋(1973)津海岸のハマベゾウムシについて ひらくら17(202):79~83
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