表紙の作品解説
堀文子(1918~ )
《極微の宇宙に生きるものたちⅡ》
2002年
紙本彩色
45.5×38.0㎝
個人蔵
2001年、83歳のとき、堀文子は個展会場において解離性動脈瘤で倒れ、入院した。生死の境をさまよった、という。奇跡的に治癒したその時、身体の中の、それまでは気にもとめなかった細胞の存在に気づかされたそうだ。そして、そのまなざしは、極微なものに向かう。
極微の生物たちの神秘をうつしだす顕微鏡を手に入れ、人間の目ではとらえられない世界を描き出すことになった。たった一滴の水の中で繰り広げられる命の営みに魅了された堀文子は、驚くべきことに、大病を患ったその翌年に《極微の宇宙に生きるものたちⅡ》を完成させる。ミジンコや珪藻の次は、生命の原始の形に魅せられてクラゲに熱中、続いて庭に生きる虫や蜘蛛の生体へと、その興味は広がりをみせる。
「この先、どんなことに驚き熱中するのか。私のなかの未知の何かが芽を吹くかも知れないと、これからの初体験に期待がわく。もう老年に甘えているひまなどない。」という堀文子。90歳を超えた今も、未知なる世界への好奇心は衰えることなく、創造を追究し続けてやまない。
(道田美貴)