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常設展示室から

毛利伊知郎

現代の日本では、大きな経済力を背景に様々な展覧会が数多く各地で開催されるため、ややもすると所蔵品展示は軽視されがちです。趣向をこらした展覧会で古今東西様々な美術に接することも私たちにとって大きな楽しみではあるのですが、コレクションがかざられた静かな展示室で、誰にも邪魔されず、気の向くまま好みの作品と向き合って過ごす一人だけの時間こそ、美術館での至福の時であろうと思われます。

ところで、美術館の建設準備とともに収集が始められた三重県立美術館の所蔵品は、開館以来10年あまりの間に既に3000点を越えました。美術館のコレクションとしては、質量ともに未だこれからというところですが、それでも展示スペースの制約から、なかなか紹介できない作品があるのも事実で、所蔵品展示を充実させていくことこそ、私たち館員に課せられた最も重要な課題の一つであろうと考えています。

前置きが長くなりました。早速、展示室へご案内しましょう。

第1室は、通常のコレクション展示とは趣を変え、開催中は【三重の子どもたち展】第一部と少し関連を持たせた作品を紹介しています。この展覧会の第一部では、昨夏、上野市で元永定正さんと斎正弘さんの協力による通常の絵筆などを用いない表現に力点を置いたワークショップが、また関口怜子さんと柳楽隆一さんたちによって宮川村の豊かな自然の素材を用いたワークショップが行われました。

そこで、この展覧会会期中の第一室は、通常の絵筆や絵具以外の画材等によって現代日本の作家たちが試みた様々な絵画表現の作例と、石や木などの自然素材を用いた立体造形作品を所蔵品から選んで構成してみました。

ワークショップの主旨と一致する作品ばかりではありませんが、今日では、絵筆と紙、絵具による常識的な絵画というものが、平面的な造形表現の中の一つにすぎないこと、既成概念にとらわれない自由な絵画表現の世界が私たちの前に開けていることがおわかりいただけるのではないかと思います。

隣の第二室の主人公は、横山操の代表作「瀟湘八景」です。「瀟湘八景」という画題には長い歴史があるのですが、そうした由来を知らなくても、この作品の魅力は十分に味わうことができます。

各図は、部分的に洋画風の表現をまじえ、変化に富む水墨技法によって描かれています。たとえば、山市晴嵐や平沙落雁は、あたかも戦後日本の絵画界を吹き抜けたアンフォルメル絵画の影響を髣髴させる抽象的な画面を見せ、また遠浦帰帆や洞庭秋月では、東洋絵画固有の余白を活かした独自の風景世界が生まれています。これら八景それぞれは、伝統的な画題に基づきながら、その表現は現代の私たちに強く訴えかける強い生命力を備えています。

最後の第三室は、西洋美術の展示室です。当美術館の西洋美術コレクションの中心は、フランス近代とスペインの絵画ですが、現在は印象派の先駆者ヨンキントの版画作品をはじめ印象派関係の作品を中心に展示しています。ささやかな展観ですが、異文化の一端に触れていただくことができるかと思います。西洋美術については、今後さらにスペイン美術を中心に収集を進め、質量ともに充実させていくことが大きな課題と考えています。

駆け足で、現在の常設展示室の内容をご紹介致しました。展示室の作品を全部見る必要はありません。お気に入りの作家と、あるいは好みの作品一点と心を通わせることこそ、本当の美術に対する接し方かもしれません。

(もうりいちろう・学芸課長)

友の会だより 41号より、1996.3.25

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