令和06年08月31日
希少淡水魚シロヒレタビラの遺伝的集団構造の学術論文出版について
三重県総合博物館は「三重の自然と歴史・文化に関する資産を保全・継承し、次代へ活かす」という使命のもと、資料の調査研究、収集保存、展示、活用発信などの活動を行っています。
このたび、英文学術誌「Nature Conservation」に、当館学芸員らが取り組んだ希少淡水魚シロヒレタビラの遺伝的な集団構造に関する研究成果が論文として掲載されました。
1 出版日(オンライン)
令和6年8月8日(木)
2 掲載誌、タイトルおよび著者
・掲載誌:Nature Conservation 59巻 19-36頁 2024
(ネイチャー コンサベーション:自然保護の意)
・英文タイトル:「Phylogeography and genetic population structure of the endangered bitterling Acheilognathus tabira tabira Jordan & Thompson, 1914 (Cyprinidae) in western Honshu, Japan, inferred from mitochondrial DNA sequences」
日本語タイトル「日本の本州西部に生息する絶滅危惧種シロヒレタビラの系統地理と遺伝的集団構造をミトコンドリアDNA配列から推定する」
・著者:伊藤 玄 (いとう げん 龍谷大学 生物多様性科学研究センター)
小山 直人(こやま なおと NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会)
野口 亮太(のぐち りょうた NPO法人流域環境保全ネットワーク)
田畑 諒一(たばた りょういち 滋賀県立琵琶湖博物館)
川瀬 成吾(かわせ せいご 滋賀県立琵琶湖博物館)
北村 淳一(きたむら じゅんいち 三重県総合博物館)
古屋 康則(こや やすのり 岐阜大学教育学部)
・掲載HP:https://doi.org/10.3897/natureconservation.56.111745
(HPから論文PDFを無償でダウンロード可能)
3 研究内容
•日本列島に生息する絶滅危惧種の純淡水魚類のシロヒレタビラAcheilognathus tabira tabiraの効果的な保全活動を促進するために、各地域集団の地域固有性や、在来集団、国内外来集団、在来と外来の交雑集団の遺伝的な集団構造を解明。
・国内の既往の全自然分布範囲を2015年から網羅的に探索して個体を採集し、遺伝解析を行い、伊勢湾集水域に2つ、瀬戸内海集水域に1つの計3つの系統を確認。
・瀬戸内海集水域の1つの系統内に、さらに、5つの遺伝的分化グループを新規に発見。
・遺伝的な地域差は、古水系(古淀川)の消失と鈴鹿山地等の隆起による物理的な隔離によると考えられるが、四国・吉野川水系の集団は、瀬戸内海で隔離されているにも関わらず、琵琶湖・淀川水系の集団と同じ対立遺伝子を持っていたことが解明され、人為放流による移入集団(国内外来集団)であることを示唆。
・「世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ」の岐阜県産の飼育集団は、伊勢湾集水域の純粋な在来系統の可能性が高いことが判明した。現時点で、この飼育集団は、既存の唯一の伊勢湾集水域の純粋な固有性をもつ集団。
4 本論文で採集され分析した個体の根拠標本と展示について
・本論文で採集され分析した個体は、当館学芸員や筆頭著者らが液浸標本として製作し、証拠として三重県総合博物館で登録、収蔵庫に収蔵。論文には標本番号が掲載。
・一部の標本は、三重県総合博物館で現在開催中の企画展「標本 あつめる・のこす・しらべる・つたえる」で展示中。
5 今後について
・本論文の成果や今回得られた標本を利用したさらなる調査結果を、現生息地域の行政やNPO、保全団体等の関係者に情報提供。
・現生息地の集団が絶滅しないよう生息状況調査(モニタリング)を、関係者とともに絶滅しないように実施。
・成果を活用し、飼育個体等の野外への人為的な放流の抑制等の環境保全の啓発を、標本の展示や学芸員講座、書籍執筆等の手段で促進。
6 同時資料提供機関
龍谷大学、岐阜大学、滋賀県立琵琶湖博物館
7 配信先
本件は各機関から、文部科学省記者会、京都大学記者クラブ、宗教記者クラブ、滋賀県教育記者クラブ、大阪科学・大学記者クラブ岐阜県政記者クラブ、三重県政記者クラブ、三重県第二県政記者クラブ、滋賀県政記者クラブ、南部記者クラブにも配信しています。
写真1 京都府の淀川水系のシロヒレタビラ
写真2 岡山県の高梁川水系のシロヒレタビラ
写真3 企画展で展示中の標本
写真4 企画展で展示中の標本