ヤチスギラン(Lycopodium inundatum L)
資料名 | 和名 ヤチスギラン 学名 Lycopodium inundatum L |
資料番号 | MPMP 30061 |
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資料形態 | さく葉標本 | 分 類 | シダ植物 ヒカゲノカズラ科 |
原資料産地 | 伊賀市 | 採集年 | 昭和56(1981)年 |
![]() ヤチスギラン(さく葉標本) |
![]() 生育地のヤチスギラン(伊賀市) |
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解 説 | |||
ヤチスギランは近畿地方以北の本州と北海道に分布し、寒地や高地の湿地に生育しています。水がしみだす裸地や草原の地表に、長さ20cm以下の横にはう茎を伸ばします。その姿はコケを思わせますが、ワラビやウラジロと同じシダ植物です。横にはう茎から枝分かれした直立する茎の先端部には胞子をつける穂がつくられます。夏緑性で、冬になると茎の大部分は枯れて、先端部分だけが残り春を迎えます。 三重県のヤチスギランは、日本における分布の南限として重要です。桑名市、津市、伊賀市で生育が記録されていますが、桑名市と津市では絶滅したとみられ、現在は伊賀市の一部に生育しているにすぎません。『三重県レッドデーターブック2005』では近い将来における野生状態での絶滅が心配される「絶滅危惧ⅠB類」に分類されています。生育地である山間部の湿地はゴルフ場や土砂採取などの開発対象となりやすいことから、湿地自体の消滅をはじめ、開発に起因する土砂流入や湧水の減少による湿地の乾燥化がみられ、現在の生育地も安心できる環境とはいえません。 本来は寒い地域に自生するヤチスギランがなぜ三重県に生育しているのでしょうか。それは氷河期など寒冷な時期に分布を広げていたものが、温暖化により多くの地域で生育ができなくなる中、湧き水などにより冷涼な環境に保たれた湿地にのみ生き残り、現在のような分布が形成されたと考えられています。このような種類は「氷河期の遺存種」とも呼ばれ、三重県内ではムシトリスミレやヤチヤナギなどをあげることができます。 三重県は日本のほぼ中央に位置し、南北に長いため北方系の植物と南方系の植物が混在し、多くの植物種で南限や北限の生育地となっています。さらには多雨や積雪、山から海岸と多くの異なる環境をもつことから、多様な植物がみられる地域でもあります。しかし、多様な植物は限られた地域の微妙な環境に支えられており、環境が維持されなければ生育できなくなります。生物の多様性を失うことは、三重県の豊かな環境が危機的状態になりつつある信号(サイン)であることを忘れてはなりません。 (M) |