オニバス(Euryale ferox)
資料名 | 和名 オニバス(鬼蓮) 学名 Euryale ferox |
分類 | スイレン科 オニバス属 |
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資料形態 | 樹脂封入標本 葉(大・小の2種類) 種子とつぼみ レプリカ標本 葉 |
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原資料産地 | 桑名市多度町(旧桑名郡多度町) | 採集年 | 平成8(1996)年 |
オニバスの自生地(津市 平成16年) |
つぼみ(左)と種子(右) |
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左上 小さい葉(表) 右上 小さい葉(裏) 左下 大きい葉(表) 右下 大きい葉(裏) |
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左 葉のレプリカ(表) 右 葉のレプリカ(裏) |
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解説 | |||
ため池などの流れのない水面に、直径1mを超える巨大な葉を浮かせる水草です。葉や葉柄など植物体の表面全体に大きなトゲが生えていることから「鬼」の名がついています。「ハス」の名はついていますが、ハス科ではなく、スイレン科に属しています。毎年、種から芽を出す一年生の草本ですが、1mを超える巨大な葉をつける植物が一年草であることは驚きです。春先に出る幼い葉は、矢じりのような形をしていますが、成長とともにハート型から円形へと変化しつつ、巨大化していきます。最終的には、直径が2mを超える葉も見られることがあります。 夏から秋(8月から10月)に、水面に直径4cmほどの紫色のスイレンに似た花をつけますが、葉の大きさに圧倒されて目立ちません。これとは別に、自家受粉(じかじゅふん)で確実に種子を残すため、花びらの開かない閉鎖花(へいさか)を水中に多数つけます。種子は、球状で種衣(しゅい・種子を包む皮)の浮力でしばらくは川面に浮いて移動し、種衣が劣化すると水中に沈んでいきます。オニバスの種子は発芽まで永い眠りにつくことがあり、数十年近く確認されていなかった津市内のため池で平成16(2004)年に自生が確認された例も知られています。 オニバスは、アジア東部(日本・中国)からインドにかけて分布が知られていて、日本では本州や四国、九州のやや富栄養化(ふえいようか)した湖沼(こしょう)や河川で見ることができます。しかし、湖沼の埋め立てや河川改修、そして水質の悪化から近年減少が進み、国のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ類※1に、三重県のレッドデータブックでは絶滅危惧ⅠA類※2および三重県指定希少野生動植物種に指定されています。県内では、桑名市・津市・志摩市で姿勢が確認されていますが、自然状態での発芽が毎年確認できる自生地はありません。 当館には、実物の葉を樹脂封入(じゅしふうにゅう)した標本※3と実物の葉をモデルに樹脂で製作したレプリカ標本※4が収蔵されています。これほど大きい葉は通例の植物のように全体をさく葉標本(押し花)とすることは難しく、樹脂封入標本やレプリカ標本にして、オニバスの大きさや特徴を理解していただける資料となっています。(M) ※1 絶滅危惧Ⅱ類 減少要因が今後も作用し続ける場合、近い将来に絶滅の危険性がきわめて高い種(絶滅危惧Ⅰ類)となるもの ※2 絶滅危惧ⅠA類 ごく近い将来、野生における絶滅の危険性がきわめて高い種 ※3 樹脂封入標本 ポリエステルやエポキシ樹脂で資料を封入した標本 ※4 レプリカ標本 本物の資料から型を取り、さまざまな素材で実物資料の特徴を再現した学術的にも価値のある資料 |