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100の絵画・スペイン20世紀の美術展について

 100の作品で20世紀スペイン絵画の全貌をあますところなく呈示することの困難なことはいうまでもないが,本展であえてそれを試みるのは,イベリア半島に位置するスペインという国の地理的条件や長くつづいた政治的混乱のもとにあっても,それに対して多様な対応で旺盛な創造のエネルギーを噴出させてきたこの国の絵画の特質と骨格を探りだそうとの意図からである。

 本展の冒頭におかれているのは,ピカソ,ミロ,J.グリス,ダリの作品である。彼らは,スペインを去ってパリに赴き活動を開始し,それは20世紀前半期の世界の美術をリードした。彼らのいずれもが強烈な個性の持ち主であるが,彼らの作品の根底には共通した「スペイン的なるもの」が秘められているように思われる。キュービスム,シュール・レアリスムといった20世紀美術の最も重要で,また,最も革新的であったこれらの美術運動の展開は彼らなしには考えられない。しばしば,スペインの美術史には個性的なものが突如として現われてくる,と指摘されるが,彼らが離脱していった祖国スペインはこの時期に極度の政治的社会的混乱と文化的停滞・逼塞の状態にあった。戦乱や混迷のなかにあっても芸術は必ずしも沈黙するとは限らないが,強力な独裁政治のなかにあっては停滞を余儀なくされるものであろう。そしてそうした体制下にあって募るのは飢餓感である。このことは日本における我々の近い過去においても経験したことであったが……。ピカソをはじめとする世紀前半期のスペイン以外の地にあったスペインの芸術家たちの作品の背後に,こうした状況があったことを忘れてはならないであろう。第二次大戦の終結の直後においてもスペインの状況はさして大きくは変化しなかったが,世紀後半期の最初の四半世紀,先行者に続く世代の画家たちは先行者たちの獲得した国際的評価の表面的な成果におもねることなく,しかしその成果を摂取しながら確実に前進しているようにみうけられる。ドミンゲス,グラネイ,クラベといった画家たちである。

 世紀後半期に世界的潮流,国際的様式となったのはアンフォルメル,抽象表現主義であったが,タピエス,ラフォルス・カサマダ,ミリャーレス,サウラといった画家はこれに包含されるであろうが,彼らの画面には暗い混沌と明るい秩序とが不思議に融合して,新しいものへ飛翔しようとしている衝動の強さが感じられる。

 スペイン社会が決定的な変化の時期を迎えたのは1970年代後半であったようである。フランコ将軍の死は政治,社会,そして芸術の面にも大きな変革をもたらしたようにみうけられる。スペインのある評家によれば,80年代は変容と自由の回復の10年間であった,という。我々は,東洋の日本にあっても,この時期にスペイン美術についてスペインからの活発で,生気に溢れた情報とメッセージを数多く受けとったものである。本展の展示の最後の部分は,この時期のまさに多様多彩な才能の現出となるであろう。

 本展のもつコンセプトの非常に困難な作業を見事に果して下さったスペインのコミッショナー,ハビエル・ルイス氏に私は心からの尊敬と謝意を表したい。またコロンブス500年記念委員会をはじめ協力して下さった各機関,蒐集家,画家の方々にも厚く謝意を表すものである。

陰里鉄郎
本展コミッショナー
三重県立美術館長

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