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学芸室だより リニューアル版

テーマ:心に残るこの1点  伊藤若冲の魅力

2008年4月22日 井上隆邦

心に残る一点となると、どうしても、江戸期の作家、伊藤若冲 の“南天雄鶏図”と“池辺群蠢図“を挙げざるを得ない。一点ではなく、二点ではないか、と疑問が出るかもしれないが、この二点には同時に出合い、また新鮮な印象を受けたから、二点纏めて心に残る作品としたい。

 

二点のうち最初の一点は有名な“鶏シリーズ”で、画面に超然と佇み、その存在感を誇示するような雄鶏の姿が印象深い。描写は繊細にして緻密だが、デフォルメが利いていて、それが雄鶏の存在感を一層際だたせている。雄鶏のとさかと南天の赤は鮮烈で、人をシュールな世界へと誘う。一方、“池辺群蠢図”は、池の周囲で、蠢く蛙、トカゲ、トンボや蛇といったものが題材。グリーンの濃淡を上手に使い分けた作品だ。博物学的な視点に満ちた絵画でもある。“南天雄鶏図”の赤に対して“池辺群蠢図”のグリーンは色彩面では好対照だが、2点とも画面の背後におどろおどろしさが潜む。

 

いったいなぜ、筆者が若冲に惹かれるのか。趣味志向、といってしまえば、それまでだが、団塊の世代生まれの筆者も当然ながら当時の世相の影響を受けている。学生運動が盛んだった頃だから、その影響も否定できない。こうした世相の影響だろうか、筆者の好みは変革型、激情型、闘争型の作家に偏りがちだ。幕末という時代の大きな転換期に登場した川鍋暁齋、人を食った様な作品を多く残した、江戸の奇才、曾我蕭白、そして、狩野派という保守本流に対抗して、自由で創造性に満ちた作品で知られる若冲。こうした強靱な個性を持つ作家には大いに惹かれるし、また、筆者が育った時代の雰囲気にもぴたりと合う。

 

若冲に惹かれるもう一つの理由に作家、中村真一郎さんの存在が有る。古今東西の文学や美術に精通した中村さんは、江戸についても様々な文章を残していて、若冲のファンでもあった。若冲の魅力について生前、中村流の、独自の解釈を伺い、筆者がその影響を受けたことも否定できない。

 

1982年にロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開催された“江戸大美術展”で若冲の二点に出合って以来、折に触れて若冲の他の作品にも触れてきた。しかし、未だに理解出来ないのは、若冲の作品に登場する葡萄や南天、菊、蓮などの葉っぱに虫食い状態のものや、枯れたものが数多いことだ。こうした作風は、鮮度に対する関心の裏返しかもしれない。若冲が京都・錦の青果物商の息子として育った関係でこうした作風が身に付いたのだろうか。中村さんがご存命ならば、一度、伺いたいと思うが、それも叶わぬ夢となってしまった。ユニークで機知に富む中村さんだったら、何と答えるだろうか。

伊藤若冲 《南天雄鶏図》

 

伊藤若冲

 

《南天雄鶏図》

 

(動植綵絵の内)

 

宮内庁三丸尚蔵館蔵

 

 

 

伊藤若冲 《池辺群蠢図》

 

伊藤若冲

 

《池辺群蠢図》

 

(動植綵絵の内)

 

宮内庁三丸尚蔵館蔵
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