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ロヒール・ファン・デル・ウェイデン(1399頃−1464)《聖母子》

1454年以降 油彩・板 31.9×22.9cm ヒューストン美術舘蔵

 画面に近づいてみれば、その表面は、透明感をたたえながら硬質でもある、そんな光沢を放っている。とりわけ聖母の衣の濃青色は、暗さの点で背景の黒に接近しながら、内側から輝きだす一歩手前であるかのような、暗い光のふくらみを宿しており、もって、人物の肌の明るさと背景を仲介する、というか、両者の並存を保証することになる。これは、ファン・エイク兄弟によって完成されたという油彩画法の特性を活かすことでえられたものだろう;板に白地を塗り、その上にきわめて薄く溶いた絵具を幾重にも塗り重ねる。その結果、表面から侵入した光は、白地で反射し、画面の色に透明感とあざやかさをもたらす

 ただしディルク・デ・フオスによると、「この小品は、ひどく傷んで、度を越した洗浄と補彩を施されたため、当初のありようの影でしかない」という。Dirk de Vos,Rogier vander Weyden. The Complete Works,NewYork,1999,P.315.

 また、聖母の両手もとからのぞく袖の赤は、暗さでは暗青色や黒に近づきつつ、肌や白もふくめて、おのれ以外の全体を覆うやや冷たい感触と対比され、画面に生気を吹きこむ役割をはたしている。

 

 そうした中、人物の描写はきわめて精緻に猫きこまれており、わけても聖母の額や顎から首にかけての、微妙な陰影が実在感をもたらす。ところで、ぼかした陰だけで処理された顎から耳にかけてとは対照的に、赤子および彼を抱く聖母の両手では、輪郭線がはっきり見てとれ、複雑なアラベスクを織りなしている。線の表情を強調するために、たとえば聖母の両手の指では、陰影による肉づけが抑制されたかのようだ。

 

 きわめて細い線による波を重ねた髪の描写が、色面および下方の輪郭線とはまた別の領域をなすことをおけば、線の強調は、聖母と赤子が頬を合わせる接線と聖母の両手との間に封じられており、聖母の額、頬、首から胸もとにかけてが広い面として現われる点との対比から、聖母が赤子に寄せる、感情の傾斜を伝達することだろう。弓のように張りつめた赤子の左腕、そして母親の顎にそっと添えられた右手が、これに応答する。

 

 もう一つ、交わらぬままの二人の視線を忘れないでおこう。そこから現われた感情にどのようなことばをあてるにせよ、描かれた二人の関係は、この絵における色や陰影、線の配分、絵具の塗りようなどと一つになることで、沈潜すると同時に濃密なものとして浮かびあがったのだ。

 

(石崎勝基・学芸貞)

 

年報/ヒューストン美術館展

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