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洋風美術研究回顧・緒方富雄さんのこと

 さる3月31日、緒方富雄さんの訃がつたえられた。緒方さんは医学者、血清学の大家として知られており、その緒方さんについてこの欄で記すのは奇異な感をもたれるかも知れないが、私にとっては緒方さんは蘭学研究家で、私たち日本における西洋美術の受容についての調査や研究に多少とも携わったものにとっては、その良き理解者であったことで忘れえない人であった。

 

 私が緒方さんを知ったのは、1970年代の初めのころであった。蘭学資料研究会(1954年発足、略称蘭研)という江戸時代の海外との関係に関する研究家たちの小規模な研究会があり、それに参加したときであった。緒方さんは、緒方洪庵の曽孫にあたり、洪庵や適々夕斎塾についてはもちろんのこと杉田玄白の『蘭学事始』についての詳細な注釈など、医学史の方面からの蘭学研究に取り組まれていたはずであるが、美術をもまた非常に好まれ、大きな関心を寄せられていたのであった。70年代、この蘭研での研究発表には、医学史、科学史、語学史等々と並んで美術史関係の発表が活発になされたことが憶い出される。菅野陽氏、芳賀徹氏、坂本満氏などの発表があり、私も2、3の発表をしたことを覚えている。これらの発表のときの緒方さんの主宰ぶりはまことに見事で、内外について該博な知識の持ち主であること、各分野についても実に的確な進行ぶりをみせるのには目をみはるばかりであった。それらに刺激されてさらに研究発表がなされるというような展開をみせたもので、私たちの洋風美術の研究も通常の学会発表とはすこし趣のちがった学際的な傾向をつよめていったように思う。英文学者で、評論家として著名であった故中野好夫氏の司馬江漢についての発表など、いまなお鮮明に記憶している。

 

 いつか、私たちの美術館で洋風美術の企画を実現してみたいと考えていた矢さきの緒方さんの訃報であった。合掌。 

 

(陰里鉄郎・館長)

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