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ひる・とおく

 大阪のベッドタウンとして近年急激に人口が伸びつつある伊賀の名張市において、本年度はじめての移動美術館が開かれた。名張は、藤堂家の城下町として発展してきた小都市であったが、ここ20年の間に倍近くの人口をかかえるようになった。当然のことながら新旧住民が刺戟し合って、身近な生活環境や文化のあり方について見直されることとなった。移動美術館が開かれたのも、こういう土壌の中から生じた住民ニーズの現れでもある。

 

 移動美術館は、日頃県立美術館に訪れにくい遠隔地の人びとにも美術鑑賞の機会を提供しようということから、毎年県下3か所で実施しているものである。受け入れ市町村の施設や体制は必ずしも満足すべきものではないが、年々入場者は増え、開催地からは大変好評を得ている。三重県内の都市配置は、伊勢湾沿いにほぼ等間隔に10〜20万都市が連たんし、伊賀や東紀州地域の各都市は、関西経済圏と接し、その誘引力にゆだねながら県の中心部へは常に距離的ハンディをかかえているという特色をもつ。したがって県庁所在地の津市に配置された各施設の利用は、県民全体にとって平等にゆきわたっているとは言えない。本県のもつこのような地理的宿命も、将来交通事情の改善によってはある程度のハンディも取り除かれよう。

 

 遠隔地住民に対するハンディをうめ合わせるものとして移動美術館が開設されたのであるが、これを単なる県立美術館の出前的サービスに終らせてはならない。主体はあくまで地域住民であり、そのニーズを的確にとりあげ、どのような機会と場を演出するかは市町村の使命と考えたい。

 

 名張の会場は、近鉄名張駅から程遠くない小高い丘の上に建てられた市立図書館である。これからの図書館として、すばらしい開放的機能を備えているばかりか、名張ゆかりの推理作家江戸川乱歩コーナーを設け、推理小説の流れをくみ取れるのも楽しい。都市分散型の本県として、このような特徴をもったミニ美術館が各地に出来て、県立美術館とも有機的に結べるならば、芸術文化はもっと住民に親しめるものとなろう。

 

(橘 重蔵 三重県立美術館次長)

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