MERYON, Charles // Petit Pont // 1850 // Etching and drypoint on paper 緻密に描き込まれた写実的な街景図と見るこの作品がしかしそれだけに留まらないのはのは、早くから指摘されたノートル・ダムの鐘塔が高すぎ、視点が二つある(水面に近いところと橋の欄干の高さ)こととは別に、画面がもつ硬質な感触によるのだろう。この剛(こわ)さは、空気の存在を感じさせなし細密なだけの地誌図とは異なり光と影の描写を欠いてはいないが、建物を大気に溶かしてしまうことのない、明るい部分と窓など暗い部分との強い対比から生じている。メリヨンの画風が成立したばかりのこの作品では線影(ハッチング)が交差するそれでなく、一方向に平行するものを主としているのも、面と面の連なりを緊張させていよう。この硬質さが、描かれた情景と視る者との間に隔たりを生み出すとともに、画面に固有の存在感を与える。 メリヨンが描くパリは、表向きのモニュマンであるよりはむしろ裏側の通りや川べりである。ただし生活の匂いが漂うわけでもなく、多くの人間は建物に此して亡霊にまで切りつめられている。主役は石造りの建造物が集まった都市そのものである。 彼がやがて陥る狂気については措こう。はりつめた緊張感は、金属の版との交渉によってたつ銅版画の特性を展開したものに他なるまい。 (石崎勝基・学芸員) 作家別記事一覧:メリヨン |
25.3x18.5cm エッチング+ドライポイント 1850年 |
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