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麻生三郎 (あそうさぶろう/1913-2000)
男の顔
1972年 油彩・キャンバス
暗くて重い紫色の色面が、複雑な濃淡や陰影を伴って画面を覆っている。一目見た時、そこに何が描かれているのか、また作者が何を表現しようとしたのか、ほとんどわからない。しかし、少し時間をかけて画面を見ていると、そこから人物や人の顔が浮かび上がってくる。しかも、暗い色調の中で、デフォルメされた人物の姿は、あたかも人間存在の本質をさらけ出しているかのように、私たちに迫ってくる。悲惨な戦争や、多くのゆがみを内包した現代社会は、画家たちに人間とは何かということを繰り返し自問させてきた。麻生三郎が描く、一見混とんとした作品も、戦争体験と矛盾の多い戦後社会と正対し、人間の本質を問いつめた画家の一つの解答といってもよい。
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