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菅井 汲(すがいくみ/1919-1996)
愛人たち(版画集5点組)
1988年 リトグラフ・紙
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菅井汲 森の朝
1967年 油彩・キャンバス
行けども行けども続くドイツの森を一直線に貫く高速道路。そこを時速200キロ以上の猛スピードで自動車が駆け抜けてゆく。近代機械文明の象徴のような疾駆する自動車と太古よりの生命を潜ませた全く異質なとり合わせが、そこにかつて人間が見たこともない風景を誕生させる。
自動車という機械の力を最大限に発揮して駆け抜けるとき、太古の自然もまたとてつもない変容をこうむる。この変容の魅力にとりつかれた自動車の運転者こそ菅井汲であり、それを画面に定着させたのがこの一点と言える。
緑、赤、青、黄のほとんど原色のみの色使いと、まるで図形のように抽象化された画面にもかかわらず、そこには確かに露にぬれた朝のみずみずしい森と大気、光が、どんな写実的描写にも劣らぬほど鮮やかに感じとれる。生死を駆けた疾走によって生じる生命感の高揚がそれらを引き出させたのであろうか。
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