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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1989 > ミニ用語解説:イリュージョン 石崎勝基 友の会だよりno.22, 1989.11.21

ミニ用語解説:イリュージョン

英語の「イリュージョンillusion」は、辞書によれば、幻影、幻覚、思い違い、錯覚、迷い、等の意味がある。幻という単語の日本語の語感は、普通には、とらえどころのない、あやふやな、真実味のない、といったニュアンスを聞くものに与えるかもしれない。

ところで、美術関係の用語としてのイリュージョンは、上に記したのとは逆に、いかにも本当のような、描かれる対象が目の前にあるかのような、といった意味で使われる。現実には存在しないのに、いかにも現実に存在するかのように描写されているがゆえに、見るものに錯覚を起こさせる。錯覚が成立するためには、それだけ現実味が強くなければならないわけである。

絵に描かれたものを現実と間違えたという逸話には、古代ローマのプリニウスが記録したもの以来事欠かないが、こうした性格だけを強調すれば、〈だまし絵 trompe-l’oeil〉となる。すでにローマ絵画に遺品が残されているが、特に現実の存在の実在感を再現することを大きな目標とした(すべてではない)ルネサンス以降、その例は数多く、本館所蔵の岩橋教章作『鴨の静物』も、西欧絵画のそうした伝統の末尾に位置するものである。

他方、20世紀美術のある系譜は、そうした、作品から作品外のなにかを指し示すような因子を排除しようとしてきた。その結論としてのミニマリスムは、しかし、作品を作品でしかないものとして呈示せんとした時、物体としての作品と同時に、作品が作品であるというまさにそのことを、観念/イリュージョンとして、いやおうなく見るものに示さざるをえなかった。とすれば、イリュージョンとは、再現性のいかんによらず、表現の根幹にかかわっているのであろう。

(石崎勝基・学芸員)

友の会だよりno.22, 1989.11.21

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