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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 1997 > ミニ用語解説:グラフィック・アート 土田真紀 友の会だよりno.44, 1997.3.1

ミニ用語解説:グラフィック・アート

「グラフィック・アート」は、今日、特に美術に関心がなくとも耳にする、日常的な言葉である。漠然とポスターなどの広告物に対して用いられることが多いが、商業美術や商業デザインは、消費生活を中心とする現代社会においては、不可欠の要素だからであろう。

グラフィック・アートは、もともと、何らかの印刷技術を用いて制作される版画や印刷物、あるいは技術そのものを指している。最古の印刷技術である木版の誕生の地は中国といわれ、奈良時代、称徳天皇が発願して造らせた百万塔の中に収められた木版の「百万塔陀羅尼」は、現存する最古の印刷物として知られている。ヨーロッパでは、ルネサンスの頃までにこの技術が伝わり、初期印刷本や版画などが制作されるとともに、15世紀半ばには活版印刷も創始されている。

印刷技術としてのグラフィック・アートの目的は量産であり、それによって文字や絵などの情報を広く伝えることにある。市民社会の登場とともに、もっと簡単にもっと大量に情報を伝達したいという要求から、印刷技術は急速に発展し、18世紀末にはリトグラフ、20世紀初めにはシルクスクリーン、そして現在の写真製版による印刷と、次々に新しい技術が開発されてきた。

ところが、Artという元来「技術」を指す言葉が次第に「美術」や「芸術」を意味するようになったのと同じく、グラフィック・アートにおいても、新しい技術は常に同時に新しい表現の可能性をもたらし、その技術を駆使して「芸術」へと昇華させる才能もまた登場してきた。すぐれた画家=版画家の活躍によって、グラフィック・アートは「版による芸術」としても確立されてきたのである。しかし冒頭に述べたように、現在、グラフィック・アートは商業的な目的と不可分の関係にあり、この分野でも次々に新しい表現が開拓されている。常に実用的技術と芸術の接点に成立してきたものがグラフィック・アートといえよう。

なお、線による表現を主体とした作品をグラフィック・アートと呼ぶ場合もある。

(学芸員・土田真紀)

友の会だよりno.44, 1997.3.1

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