藤田嗣治《猫のいる自画像》
1927(昭和2)年頃/油彩・キャンバス/54.3×45.5cm
縦54.3センチ、横45.5センチの縦長の油絵です。アトリエの一角で制作をする画家自身の姿が描かれています。
丸い黒縁の眼鏡をかけ、鼻の下に口ひげを蓄えた、おかっぱ頭の画家。彼の視線はまっすぐこちらに向けられています。頬杖をつく右手には、細い筆が握られ、左手は机に載せた紙の上に置かれています。硯石は机からはみ出して置かれ、磨ったばかりの墨が立て掛けられています。
画家の背後には1匹の猫がいます。猫の体の大部分は画家と重なっていますが、顔は画家の左肩からのぞき、しっぽは右肩の下から飛び出ています。
背景は少し複雑な構造です。画面の左上では、木枠に張ったキャンバスが裏向きに立てかけられ、画面右手には、うっすらと女性の横顔が浮かぶ、折り目のついた紙が見えます。
画面の大部分は、すべすべとした乳白色で覆われています。その白い面の上に、細くて黒い線で、ものの輪郭が象られています。画家が着ている白いシャツのしわは、淡く陰影をつけることで繊細に表現されています。