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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2019 > 表紙の作品解説 伊藤若冲《雪中雄鶏図》 友の会だより114号 2021.3.31

表紙の作品解説 伊藤若冲《雪中雄鶏図》

江戸後期 細見美術館蔵

村上敬(三重県立美術館学芸員)

 本作品には、雪が降り積もる中、餌を探す一羽の鶏が描かれています。鶏の緻密な描写、鶏冠や尾羽の繊細な色彩から、作者が丁寧な写生を行ったことがわかります。
 伊藤若冲(1716~1800)は、京都の富裕な青物問屋に生まれましたが、商売には関心がなく、趣味の絵画制作を極めた人です。絵師として伝統ある家系の出身ではないからこそ、自由な立場で絵を描きました。その作風は、濃密な色彩を誇る著色画から、筆墨の運動が巧みな水墨画まで幅広く、写実と装飾など様々な要素が融和しています。本作品でも、雪や竹の輪郭に見られる奇妙な曲線は、自然のままの表現とはいえず、若冲の表現意欲によるデフォルメといえます。
 ただ、本作品の主眼は、鶏の丁寧な写生に置かれています。江戸中期、京都画壇では、制作の基本として、写生を行うことが流行しました。つまり、絵師たちが、画手本ではなく、対象物を実際に観察して描くようになりました。その拝啓には、同時代に中国からもたらされた写実的な花鳥画や、本草学や解剖学といった学問からの影響があったとされています。しかし、日本の絵師たちは、単に中国の絵画を真似したのではなく、「自分の目で見て確かめる」という実証的な立場を重んじたのです。若冲も、庭に数十羽の鶏を飼い、その観察に何年も費やしたといわれています。

*「若冲と京の美術―京都 細見コレクションの精華―」の前期展示(2021年4月10日~5月5日)にて展示。

(友の会だより114号、2021年3月31日発行)

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