記念講演会「細見コレクションと若冲」
2021年4月10日(土)
原舞子(三重県立美術館学芸員)
企画展「若冲と京の美術―京都 細見コレクションの精華―」では、奇想の絵師として近年人気の高い伊藤若冲と、若冲を生み育んだ「京」の歴史・文化を伝える古美術品の数々を展示しました。開幕初日には、細見美術館館長の細見良行氏をお迎えし、「細見コレクションと若冲」と題した講演会を開催しました。
伊藤若冲といえば、宮内庁が所有する30幅におよぶ花鳥図の大作《動植綵絵》がよく知られています。様々な植物、鳥、昆虫、魚などの生き物を極彩色で描いた本作は、もとは供与の相国寺に若冲が寄進した作品の一部でしたが、明治時代に相国寺から宮内庁に献上されて御物となったため、一般大衆の眼に触れる機会が長らくありませんでした。若冲はいわば「忘れられた絵師」となったわけですが、戦後、アメリカ人コレクターのジョー・プライスらが若冲の作品を熱心に買い集め、一大コレクションを築きます。細見家の若冲蒐集は、海外に比べて日本の蒐集家たちの間ではまだ若冲があまり注目されていなかった時期に始まり、初期の著色画から最晩年の水墨画までを概観できるコレクションが築かれました。
細見館長はご講演の中で、「若冲というと《動植綵絵》の印象が強いためか、彩色の絵師と思われがちだが、実際にはほとんどが墨絵である」とお話しされました。今回展示されていた細見コレクションの墨絵はまさに超絶技巧の域で、墨一色でなぜここまでの描き分けができるのだろうと作品を見て感嘆するばかりでした。
(友の会だより115号、2021年7月30日発行)