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美術館 > 刊行物 > 友の会だより > 2016 > 表紙の作品解説 ベン・シャーン《愛にみちた多くの夜の回想(版画集『一行の詩のためには・・・ :リルケ「マルチの手記」より』)》 友の会だより101号 2016.6

 

表紙の作品解説
ベン・シャーン《愛にみちた多くの夜の回想(版画集『一行の詩のためには・・・ :リルケ「マルチの手記」より』)》

1968年リトグラフ・紙 丸沼芸術の森蔵

鈴村麻里子(三重県立美術館学芸員)

 パズルのピースがかみ合うように、二人の人物がぴたりと顔を寄せ合い、四本の手が彼らを優しく包み込む―この抱擁の着想源となったのは、かつて作者ベン・シャーンが出会った一枚の写真でした。エストニアの強制収容所を生き延びた人が親戚と再会し抱き合う姿を見た画家は、この印象的な二人のポーズを自らの作品に転用させることを試みます。
 本作品は、ライナー・マリア・リルケの小説『マルテの手記』の一節をもとに制作された連作版画のうちの一点。シャーンはパリに滞在していた28歳の頃、この小説と運命的な邂逅を果たします。リルケ自身の芸術観とも理解できる一節「一行の詩のためには・・」は、芸術を志す青年シャーンに大きな感銘を与えました。画家がこの版画集の制作にたどり着いたのは、彼の死の前年、 1968年のこと。余分な一切がそぎ落とされた清澄な画面には、シャーン芸術の粋が凝縮しています。
 

(友の会だより101号、2016年6月30日発行)

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