鈴鹿市白子は奈良県に次ぐ製墨生産地として広く知られているところで、「鈴鹿墨」のブランド名で販売されています。技術伝承については、様々な伝えがあって、中でも伊勢型紙との関係が深いとされ、江戸時代末期に至ってその活動が知られるようになりました。こうした伝統から「鈴鹿墨」も昭和55年10月に経済産業大臣から「伝統的工芸品」に指定されました。
立雛(左側)は、大正期に製作された型です。この型で墨職人の手で雛人形が製作されるようになました。当初は、地域の人達にはあまりなじみが無く、一部の人形や玩具の愛好家に好まれましたが、その生産高はわずかでした。また、当初のものは残っていないためなかなか見ることが出来ません。現在、郷土玩具の愛好家や人形などの興味のある人達によって求められている。
この立雛は、伝統工芸師・伊藤昭雄氏(玄泉堂)が新たに型入れして彩色したものです。人形は、型入れ、灰替えをして乾燥するまでに約2ケ月間を要します。その後、表面の灰を除き、磨きをかけてアクリル絵具等で一つひとつ丁寧に細部まで彩色を施し完成さています。
人形は、顔や衣装の彩色も簡素で、素朴な形態をただよわせている庶民的なものです。
こうした墨人形の製作は、墨職人が余暇に作ったものです。人形の首や薄い部分に割れや捻れが生じないように細心の注意を払って、型入や灰替職人の伝統的・高度な技術に支えられて出来たものです。 また、同業の職人達は、人形以外にも大小の様々な鯉やなすびと軍配、兵隊さん等も作り、職人の腕比べの対照にもなったと言われています。今でも型や墨の製品が鈴鹿などに残っていて、生産している職人もいます。 (FW)
|