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第84話 高師小僧


紀和町尾呂志地区産 高師小僧

紀和町尾呂志地区産 高師小僧

高師小僧の断面 径1p(志摩市阿児町鵜方産)

高師小僧の断面 径1p(志摩市阿児町鵜方産)

高師小僧 形も名前もユニーク

高師(たかし)小僧とは、地層中で地下水中の鉄分が、土壌または粘土中の植物の根などの周りに集まった後、根が腐ってなくなり、管状・樹枝状の褐鉄鉱を主体とする塊だ。湿地帯の泥質な堆積(たいせき)物の中で生成することが多く、形成のメカニズムには、鉄イオンの沈殿による無機説や鉄バクテリアがかかわる有機説などが提唱されている。
 ユーモラスな名前は、愛知県豊橋市南部の高師原に多産することから、高師小僧として最初に学会に報告され広まった。小僧とは、いろいろな面白い形から付いたと言われる。
今では全国で産出する同様のものも高師小僧と呼ばれる。以前は、江戸時代から明治時代にかけて開かれた物産会や薬品会の目録および本草学書で「土殷孽」(どいんけつ)、「石棗」(いしなつめ)、「無名異」(むみょうい)、「管石」、「狐(きつね)の小枕」などの名前が使われている。
高師小僧の産地は高師原のほか、北海道名寄市や滋賀県日野町をはじめ、全国に数多くある。県内では、志摩市阿児町鵜方や伊賀市真泥などで産出する。
写真@は、県立博物館所蔵の御浜町尾呂志地区産の高師小僧で、約1500万年前の新生代新第三紀の地層から産出した。どれにも中心部に管状の孔(あな)がある。また、写真Aは、志摩市阿児町鵜方産の粘土層中の高師小僧の断面だ。同心円状の茶色の縞(しま)が、根などの周りに鉄分が集まり形成された様子を示す。
さて、江戸時代、近江の本草学者・鉱物学者の木内石亭が全国各地から産する鉱物・化石などをまとめた著書「雲根志」には、伊勢國一志郡小森村(津市高茶屋小森町)の土殷孽、伊勢國能所川(安濃川)の狐の小枕などが紹介されている。
また、松浦武四郎は樺太調査の報告書「丙辰日誌」中の「按北扈従」(あんほくこしょう)で、ウエンコタン付近で採集した土殷孽を挿絵とともに紹介し、「我が故郷の勢州一志郡雲出川にては、狐の火吹き竹と唱え」と記している。松阪市の松浦武四郎記念館が所蔵するコレクションの中に、武四郎が雲出川で収集した狐火吹き竹をひもで連結した標本がある。単にひもを通し、連結したのではなく、その表面は擦(こす)り、磨かれている。
 高師小僧は、古来そのユニークな形から様々な呼び名で人々に親しまれてきた。形成のメカニズムの不思議さに加え、本県を代表する松浦武四郎にもつながる歴史の面白さを秘めている。

(三重県立博物館 小竹一之)

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