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第66話 ナマズの仲間「ネコギギ」


員弁側で採集されたネコギギの標本(県立博物館所蔵)

員弁側で採集されたネコギギの標本(県立博物館所蔵)

宮川に生息するネコギギ(鹿野雄一さん撮影)

宮川に生息するネコギギ(鹿野雄一さん撮影)

ナマズの仲間「ネコギギ」 清流の“住民”守りたい

 ネコギギはナマズの仲間で、主に河川上・中流域に生息する純淡水魚類。大きいものでも体長13センチほどだ。ぽっちゃりしていて、顔は丸く、ひげが口吻(こうふん)付近に4対(8本)あり、目がくりっとして大きく、ネコのよう。ゆっくり、うねうね泳ぎ、愛くるしい。捕まえると「ギーギー」と鳴くため、この名が与えられたのだろう。
 新種として記載されたのは1957年で、岡田弥一郎、窪田三郎両博士が三重県の宮川で採集された個体を当初、「ギギモドキ」と命名した。由来は、伊賀地方に生息している体長がもう少し大きいギギ科のギギによく似ているためだろう。ネコギギが生息している河川は伊勢湾と三河湾に流入する河川に限られるため、世界中でも三重・愛知・岐阜県にしかいない。
 生息環境は、河畔植生が豊富で、瀬やふちが連続し、繁殖場所や隠れ家となる浮石やその間隙(かんげき)が多く、水量や餌となる水生昆虫が豊富で水質がきれいな、いわゆる「清流」だ。ネコギギがいるところには必ずカジカガエルやゲンジボタルが生息し、初夏に夜間潜水で調査をしていると、鳴き声や光など動物たちの営みが生み出す自然のざわめきに心が躍り、また癒やされる。
 県内の生息水系は、かつては北から揖斐川、員弁川、朝明川、鈴鹿川、雲出川、櫛田川、宮川、五十鈴川の8水系だった。だが最近確認できているのは員弁川、鈴鹿川、雲出川、櫛田川、宮川の5水系だけ。しかも雲出川と宮川以外は確認個体数が極めて少ない。
 減少の原因は、河川整備による間隙の減少や水質悪化とされ、77年に国の天然記念物に指定された。宮川は最も良好な生息地だが、04年の台風21号で土石流が起き、河床が大きく変わった。NPO法人大杉谷自然学校の調査によると、この水害直後は生息個体数が半減した。しかし、河床が自然に改変され浮石の間隙が新しく構築された所では徐々に増加し、今では水害前の個体数にまで回復しているようだ。
 いま、川は人間の生命と財産を守る治水・利水のための政策で増水しないようになり、浮石の間隙が徐々に礫(れき)で埋まり減少しつつある。「すきま」を必要とするネコギギがすめる清流を保全・復元していくには、治水上安全な増水か、それに代わる対策が必要だろう。
三重県立博物館が所蔵している液浸標本は1982年に員弁川水系の支流で採集された。そのころ、そこでは数百個体以上が確認された。しかし95年以降、生息確認できるのは数個体に激減している。浮石の間隙も徐々に少なくなっていることから、絶滅のおそれが極めて高いことが明らかとなった。
 このため、03年以降、文化庁や県教委、いなべ市教委、地元住民により、志摩マリンランドや鳥羽水族館の協力を得て飼育、増殖の取り組みが行われている。増えた個体は将来員弁川にトキやコウノトリのように野生復帰される予定だ。その時には、員弁川が再びネコギギがざわめくことのできる「清流」となっていることを願ってやまない。


(三重県立博物館 北村淳一)

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