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第38話 カナマルマイマイ


カナマルマイマイの貝殻標本(写真1)

カナマルマイマイの貝殻標本(写真1)

カナマルマイマイ(写真2)

カナマルマイマイ(写真2)

カナマルマイマイ 屈指の陸産貝類宝庫

藤原岳をはじめとする三重県北部の鈴鹿山脈には、セメントの材料として採掘されている石灰岩地域が広がっている。石灰質の殻を持つ陸産貝類にとっては、殻の成分を補給するための絶好の生息環境となっており、たくさんの陸産貝類が生息している。
軟体動物の中で、石灰質の殻をもつ動物を貝類と呼び、生息場所に応じて海産貝類、淡水産貝類、陸産貝類の三つに分けられる。陸産貝類は、カタツムリなど陸域を主な生活空間としている仲間だ。
 今回紹介するカナマルマイマイは、藤原岳の東側(三重県側)、いなべ市藤原町篠立(しのだち)、同市北勢町新田など、極めて狭い石灰岩地域でしか見られない陸産貝類で、県の特産種となっている。このため県指定希少野生動植物種に指定されるとともに、「三重県レッドデーターブック2005」や環境省でも絶滅危惧(きぐ)種に挙げられている。
 カナマルマイマイは「軟体動物門、マキガイ綱、マイマイ(柄眼)目、ニッポンマイマイ(ナンバンマイマイ)科」に属している。河芸郡合川村(現鈴鹿市)出身の貝類研究家 金丸但馬(かなまるたじま)が1908(明治41)年夏に旧員弁郡立田村篠立(現いなべ市藤原町)の風穴で初めて採取した。
金丸は当時、県師範学校の生徒で、採取品の鑑定を依頼した京都の平瀬與一郎が翌09年1月、専門雑誌に発表し、広く知られるようになった。金丸自身も同年7月の師範学校の校友会雑誌第5号に、この貝類のことを記している。
カナマルマイマイの種名は、金丸の名にちなんで名付けられ、学名も、「Kanamarui」(カナマルイ)を冠して表記されている。県立博物館が所蔵する12個体の標本のうち、4個体は金丸コレクションだ。
貝殻は直径約30ミリ(写真1)、殻高12ミリ程度の大きさで、貝殻の周縁が著しく角張っているのが特徴。貝殻の色は、褐色がかっているものから、白色に近いものまで個体によって差が見られる。
写真2に見られるように胴体部分は細長く、貝殻の直径よりも大きく伸びる。また、目を含む大触角や小触角が、一般的に見られるカタツムリより細長い。低木の根もとや、下草などに生息するが、雨天時には木に登ったり、石灰岩質の岩の表面で活動する。主に植物質(キノコ類や植物の葉)を好み、キャベツの葉を与えると、よく食べる。
陸産貝類は厚い貝殻や粘膜といった乾燥を防ぐための機構や肺を持つことなど、陸上で生活するのに適応した形態をしている。しかし、移動能力が低く、地域的に隔離されることが多いため、種分化が起こりやすい。
こうした特性から、藤原岳周辺の石灰岩地域では、陸産貝類が、60種も確認され、国内屈指の陸産貝類の宝庫となっている。こうした貴重な陸産貝類が生息している石灰岩地域は、生物多様性を生み出す場所として守っていかなければならない。
                         

(三重県立博物館  今村隆一)

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