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第34話 中国原産カモシカ「ゴーラル」


県立博物館が所蔵しているゴーラル「ロンロン」のはく製

県立博物館が所蔵しているゴーラル「ロンロン」のはく製

中国産カモシカ「ゴーラル」 日中友好のシンボルに

 世界にはさまざまな動物が生息しているが、絶滅の危機に瀕(ひん)しているものはワシントン条約などによって輸出入や移動が制限されている。このような動物を日本の動物園などで飼育・公開する場合、しばしば動物交換が行われる。
 例えば、上野動物園のジャイアントパンダも中国との動物交換で日本にやってきた。パンダは有名だが、その交換要員として中国へ送られた日本の生きものはあまり知られていない。それは、三重県の獣としてもおなじみの、特別天然記念物に指定されているカモシカだった。
今回は、動物交換で三重県にやってきた中国原産のカモシカ「ゴーラル」を紹介したい。
 ゴーラルは中国、朝鮮、モンゴル、インド、ミャンマー、ヒマラヤに生息する体長90〜130センチ、体重22〜32キロのウシ目ウシ科の動物だ。カモシカの仲間であるため、雌雄ともに角があり、生え替わることはない。体色は灰色から黒褐色でのどの下に白斑がある。他のカモシカの仲間に比べて尾が長いのが特徴だ。
 菰野町の日本カモシカセンターが2006年に閉園した際、県立博物館が寄贈を受けた資料群に、ゴーラルのはく製が4体含まれていた。このうちの1体には「ロンロン」という名前が付いている。この「ロンロン」こそが、中国との友好親善動物交換によって三重県にやってきた1匹である。
 1977年、知事を団長とする「日中友好三重県民の翼」訪中団が中国を訪れた際、かねて県内の関係者から要望されていた動物交換を中国に要請した。翌年6月、中国は三重県にゴーラルを送ることを決め、県には交換動物としてカモシカを強く希望した。
しかし、当時、日本カモシカセンターには、交換できる若いつがいのカモシカがいなかったため、富山県の「立山風土記の丘かもしか園」から中国に送られることとなった。こうして78年12月26日、日本カモシカセンターに中国の北京動物園より国内初となる雌雄2匹のゴーラルが来園したのである。
 三重県ではゴーラルが広く県民に親しまれることを願い、県内の小中学生に愛称を募集したところ、7385点もの応募があった。その中から入賞作品に選ばれた「ロンロン」(オス)と「リンリン」(メス)が日中友好親善のシンボルに命名された。
 カモシカの仲間はストレスに弱く、場所の変化などにより死んでしまったり、繁殖しなかったりすることがあるが、2匹は80年から、87年までの8年間も毎年繁殖し、同センターを活気づけた。その子どもたちには、米国のサンディエゴ動物園や京都市動物園などへ送られたものもあり、カモシカ類の飼育・繁殖などの研究に貢献した。
 ロンロンとリンリンは優秀な動物大使である。標本となった今でも、三重の外交史の一端を背負い静かにたたずんでいる。           

(三重県立博物館 田村香里)

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